“ハイパーインフレーション”という脅しとその目的


 多くの著名な経済学者や経済評論家は今でも日本政府の債務残高を見て、日本の抱える財政赤字をこれ以上放置すればハイパーインフレーションになるという説を唱え続けています(図1)。

図1 政府の債務残高の推移
出所:総務省

 デフレスパイラルで経済がこの20年、継続的に縮小の過程に入っている中で、財政赤字をこれ以上拡大させるとハイパーインフレーションになると言っている訳ですが、ハイパーインフレーションとは“インフレ”の一種ですから、財政赤字を続ければデフレを脱して“インフレ”になることを言うに等しく、このことは財政赤字を続けることによって経済が活性化(賃金の上昇)し需要が増え、物価が上昇することを言うことになります。

 財政赤字を続ける、拡大するとは公債発行で政府歳入を賄い歳出に応える状況を指すことを言いますが、ハイパーインフレーション論者は公債発行を続ければ“インフレ”になることを言っていることになり、この経済の委縮、縮小のデフレ状態を脱却することに繋がることを言っているのに等しいのに、“財政赤字を拡大させるとインフレ(ハイパーインフレ)になるから、財政赤字は削減せよ”と言っています。つまり、「財政赤字を削減してデフレを継続させなさい」と言っていることに等しいことになります。

 そこで異を唱えると、財政赤字の拡大がこれ以上続くとインフレーションではなく“ハイパーインフレーション”になると言います。

 ところで、ハイパーインフレーションとは、どの程度のインフレーションをもって、“ハイパーインフレーション”というのでしょうか。

1956年、フィリップ・ケーガンの定義によれば、月50%以上のインフレをもって“ハイパーインフレーション”といい、年率換算にすると年1万%以上のインフレということになります。

戦後まもない日本のインフレもすさまじかったと言いますが、ピークだった昭和21年でも年率で500%ほどだったそうです(東京小売物価指数)。

2012年のスティーブ・ハンケらの調査によると、“ハイパーインフレーション”は世界史に56件あり、この過去のケースを類別すると大きく3つのパターンに分類されると柴山桂太氏は言います。

柴山桂太氏の分類によれば、

1 戦争などの理由で国内生産が完全に停止、輸入も不可能になった場合。

供給が需要にまったく追いつかない状態のときに、対外債務や紙幣の濫発などが加わるとハイパーインフレが出現。

第一次大戦後の中東欧諸国(ハンガリー、オーストリア、ドイツなど)の事例が有名。

図2 ドイツマルクーハイパーインフレーション
出所:フリー画像

2 旧体制が崩壊し、国家が新体制に移行した際の“ハイパーインフレーション”

古くはフランス革命後のフランス、最近では冷戦崩壊後の旧東側の国々(旧ユーゴ、ウクライナ、グルジア、ロシアなど)。

3 アフリカやラテンアメリカ諸国の場合

もともとインフレが何十年も続いているところに、経済発展の遅れやマクロ経済管理の失敗でインフレが止まらなくなる。

ベネズエラのハイパーインフレーションは、ベネズエラが原油産出国だったこともあり、原油高の時代には経済は好調でしたが、原油に依存しすぎ、国内産業が発展せず、原油価格が下落することによって、マクロ経済運営の失敗や国際社会からの締め出し、政治的混乱によってインフレ率が破滅的な水準に到達することになりました。

 この典型的な“ハイパーインフレーション”の分類によれば、日本が“ハイパーインフレーション”に陥る場合と言えば、

  • 中國、ロシアなどの国と戦争して国内の生産能力が破壊され、この再建に国際社会が冷淡な場合
  • 日本の政権が失敗を繰り返し、政変、革命が起きて既存の“通貨体制”が無効になるような場合
  • 二桁台のインフレが続き、経済政策が失敗し、国内産業が疲弊、壊滅状態に陥った場合

 などが考えられますが、ここで可能性の強い場合を強いて挙げれば、中国・ロシアなどとの戦争により、国内の生産能力が破壊され、周辺国からも支援が得られない場合ではないでしょうか。

 この状況に匹敵する状態を考えれば、日本、の対外純資産、経常収支が慢性的に赤字になりその赤字幅が拡大し、さらに東京、大阪、名古屋、福岡(北九州)などの大都市圏が壊滅的な地震、津波で破壊され経済活動が麻痺し、そして国際社会はこうした日本に手を差し伸べる余裕がないという状態の場合に、“ハイパーインフレーション”は起きるのかもしれません。

 皆さんはどうお考えでしょうか。日本に“ハイパーインフレーション”は起きるのでしょうか。

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日本の多くの著名な経済学者や経済評論家は財政赤字を続けると“ハイパーインフレーション”になると言います。公債発行で財政赤字を拡大するとき、基本的にインフレをもたらすことになりますが、財政赤字を拡大するとき、インフレーションではなくある日突然“ハイパーインフレーション”になるという論旨が使われます。しかし、“ハイパーインフレーション”の発生要因、状況を考えると、その可能性は皆無とは言いませんが、その発生確率は非常に低いものと言えると思います。

私たちは“ハイパーインフレーション”という“暴言”に惑わされることなく、日本の経済、国力を高めるにはどうすればよいのか、過去の常識に捕らわれることなく、真理を求めて、その真理に基づいて政策、方法を考えることが求められているものと思います。

経済学はまだ真理をついたものになっていません。多くの誤謬、不確実な要素、また現実には該当しないような仮説の上に現代経済学は成り立っています。MMTもこうした中で出てきました。まさしく経済学がまだ未完成のものだという証拠だと思われます。

私たち一人一人の常識を顧みること、どうもここが納得いかない、ここに疑問を感ずる、こうした感覚の中に真理が含まれていることが多く、今日の“ハイパーインフレーション”も、私たちの妄想を考え直させる良い題材ではないかと思います。

しかし今日の著名な経済学者や経済評論家が、何故“ハイパーインフレーション”の妄言を声高く叫び続けるのでしょうか。

何の目的で、何を求めて叫び続けるのでしょうか。

そこには、①自分が努力して学び習得したことを否定されたくない、②自分の立場、能力を誇示したい、③社会的名声を得たい、などの自己顕示欲があるのではないでしょうか。

そして、“ハイパーインフレーション”を叫び続ける人の多くは、“MMT(現代貨幣理論)”を否定しています。

 学問を追求する人には謙遜さが求められます。自分が学んだことが絶対で、後から出てきたものは全て間違いだと否定するとき、その人の成長はそこで止まると思います。

 今でも、科学の世界では多くの発明、発見が続いています。では何故、経済学だけは過去の学説のみが正しくて、新しく提起された学説は間違いだと言えるのでしょうか。

 正しく、ここに自分の“テリトリー”を犯されたくない、自分の立場を守りたいという、専門家の頑なまでの“エゴ”、専門家の“自意識・知識”が、“一般常識”を超えなくしていると言えます。

 そして行きつくところは、権力との癒着ではないでしょうか。

 財務省の緊縮財政は既に20年を超えて実施されており、この間、財務省人事も緊縮派人事が進められ、緊縮型財政が中心となり、消費増税もこの緊縮派人事によって進められることになりました。それが安倍内閣時代の2度の消費税増税で、これにより日本の経済は大きく後退し、デフレを脱却できなくなってしまいました。

 しかし、この景気後退が消費税増税にあるにも関わらず、それを認めない財政均衡を政策の基本に据える“財務省人事”は緊縮財政を強行し、デフレスパイラルをもたらしていますが、この“財務省人事”の緊縮財政を擁護する研究者、経済評論家が“ハイパーインフレーション”を声高に叫ぶ経済学者や経済評論家であり、政府財務省もこの“声”によって緊縮財政の正当性を掲げ、現在でもプライマリーバランスの堅持、緊縮財政の継続を実践しています。

図3 デフレスパイラル
出所:フリー画像

 20年に及ぶ“財務省緊縮派人事”は、その牙城を崩されないために、積極財政派は抑えられ、日本経済はデフレスパイラルで経済の収縮、国力の低下に邁進しています。

 政府・財務省と研究者、経済評論家の繋がりが深いことは、権力体制側への研究者、経済評論家の政策擁護と、権力体制に包含された研究者、経済評論家への情報、地位、仕事などの提示に見られ、互いが恩恵にあずかる利便性の大きいことに、癒着構造の深さがあります。

 そしてその結果として国民は沈みゆく経済、生活苦に耐えていかなくてはなりません。

 私たちは、真の理論、真の知識でもって妄言を打破し、日本の経済、国力を回復する必要があります。

 皆さん方のご活躍をお祈りしています。


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