皆様、ゴールデンウイーク、いかがお過ごしでしょうか。山あり、海あり、清流あり、行きたいところは山ほどあるのではないでしょうか。
ところで私は生まれた島根の寒村に草刈りにいきました。現在も奮闘中です。
7月には“道愛ご”という地域の道路保全、環境整備の活動があるそうですが、そこに集まる人の年齢構成は60代以上が7割、20~50代が3割と、典型的な高齢化社会とのことです。
今は亡き私の父から聞いた話ですが、この寒村も戦後間もない頃には理髪店があり、雑貨屋、旅館、農協もあり、とてもにぎわっていたといいます。
また、1年の季節感がはっきりとしていて、とても楽しかったとも聞いています。それは、冬はスキー、春になると梅・桜に加えて田植えのシーズンになるので、カエルの鳴き声やかましかったといいます。6月になると蛍が田んぼの周りで乱舞していたので、蛍取りに夢中になったと話していました。そして川には魚釣り、アユの友釣り、うなぎ取り、そして、7月~8月にかけては水泳、9月~10月には栗拾い、アケビとりと、1年中、季節に応じた何らかの遊びがあり、とても思い出深いものがあったといいます。
昔は田んぼの“あぜ”に大豆を植え、秋にはお米と一緒に収穫し、お正月の豆腐料理に使ったといいます。また、お茶の葉も栽培しており、自家製の“番茶”を作っていたといいます。そして養蚕も行い、“まゆ”から糸をとり、売っていたともいいます。
村はそれ自体で、自給自足生活がなりたっていたとも思われます。
この形態が壊れたのは、昭和40年代の高度経済成長の頃からで、農業の近代化という名目で、化学肥料、農薬の多用、機械化により、一気に昔からの農業の形は崩れたといいます。
そして生産性の悪い山間部の農業は衰退の道をたどることになりました。
昔、華やいでいた村から理髪店、雑貨屋、旅館、農協など、すべて閉店、撤去で、地域に残っている昔からあるものといえば、郵便局くらいのものではないでしょうか。
まだ限界集落ではないようですが、このままいくと間違いなく限界集落※になるものと思われます。※限界集落とは、人口の50%以上が65歳以上で、農業用水や森林、道路の維持管理、冠婚葬祭などの集落としての共同生活を維持することが限界に近づきつつある集落のこと。
今日本の山間部では、ほとんどの地域で農業後継者がおらず、現役世代が農業を止めれば、それで農業はなくなることを意味しています。
現在日本で自給できている農産物といえば“お米”くらいで、穀物はアメリカから、野菜類は中国からの輸入が多く、日本の食料自給率は先進国の中で最低になっています。
カロリーベースの総合食料自給率は令和元年でおおよそ38%、生産額ベースでの総合食料自給率は令和元年度でおおよそ66%、穀物自給率は27%(平16)となっています。特に畜産は穀物をほぼ輸入にたよっているため、輸入穀物がなければ、日本の畜産は立ち行かなくなります。
ところで、農林統計上の定義でいえば、都市的地域、平地農業地域、中間農業地域、山間農業地域の4 地域に分類される中で、中間農業地域及び山間農業地域に該当する地域が中山間地域と定義されることになります。
- 都市的地域:省略
② 平地農業地域:耕地率20%以上、林野率が50%未満、又は50%以上であるが平坦な耕地が中心
③ 中間農業地域:平地農業地域と山間農業地域との中間的な地域、林野率は主に50%~80%で、耕地は傾斜地が多い市町村
- 山間農業地域:林野率が80%以上、耕地率が10%未満の市町村
となりますが、この中間農業地域及び山間農業地域に該当する地域の中山間地域は総土地面積の
約7割を占め、内田多喜生氏の調査研究によれば、中山間地域は経営耕地面積の4割を占めていると言われています。
例えば、山間地経営耕地面積を全体の10%と考え、山間農業が壊滅したと仮定すれば、お米だけ
を山間農業は生産していたとすると穀物自給率はおおよそ22%にまで減少します。
実は、山間地農業が壊滅すると、確かに食料自給率が低下し、国民生活は不安定化します。しか
し実はもっと重大なことが起きることになります。
冒頭、私は草刈りにいっていると言いました。草刈りをするのはまだ地域、集落としての機能が
働いているからであって、草刈りにも行かなくなった地域の環境は荒れます。
水田は貯水能力があり、水田をとおして雨が地下水になって下流の水を潤すということが言われており、上流の集落が消滅することによって水田があれ、貯水の力がなくなったために地下水が枯れることによって、下流の水流が変化したという事例も報告されています。
一般にこうした“農業”の持つ力は「多面的機能」と言われており、①洪水を減らす、②地下水を潤す、③土砂が川に流れ込むのを防ぐ、④斜面の崩れを防ぐ、⑤酸素を作り出す、⑥気候をやわらげる、⑦安らぎが与えられる、などが挙げられています。
実は山間地農業の崩壊は食料自給率の低下以上に、農業の有する多面的機能が失われ、国土保全の喪失につながり、多額の修繕費用がかかることになります。
日本経済はここしばらくは円安基調が続くことが予想され、資材価格の上昇に伴う農産物価格の上昇、日本の山間部の農村地帯の消滅により、食料価格の上昇とともに農業の持つ「多面的機能」が失われ、日本の社会環境は悪化することが懸念されます。
私たちが山間地農業支援のできることは、草刈り支援も大切かもしれませんが、山間地農産物をできるだけ購入することによって、山間地農業経営を支えることだと思っています。