”におい”と”香り”の大切さ


 皆さんは”におい”について、どのようなイメージをお持ちですか。私の場合はすぐに口臭、足の匂い(腋臭の匂いも好きではありません)を思い浮かべ、決してプラスのイメージを持っていませんでした。

 ズックを履いて遊び惚けていた幼少期、夕方帰宅して靴を脱いで家のなかに入ってゆっくりしたとき足から漂ってくる匂いには我ながら嫌になったものでした。

 この私の体臭は大人になっても変わることはなく、靴下を履いて屋外を歩き回り、足が蒸れた状態で帰宅して靴下を脱いだ時に漂う空気に、我ながらつくづく嫌になったものでした。

 こうした私の嫌な体臭に、私自身に革命的喜びを与えてくれたものが臭い消しというか、芳香を与えるスプレーでした。そのスプレーのおかげで、私の嫌な思いは徐々に解消されていきました。

 匂いについて少し見ていきたいと思います。

“におい”とは嗅覚で感じることができる化学物質で、空気中を漂う揮発性の低分子物質になります。空気中に漂う匂い物質はとても少量で、“足の裏の匂い物質”を一滴、広い球場に垂らしただけで球場全体で足の裏のにおいがするという具合で、非常にわずかな物質が匂いに影響しているようです。

 そして“におい”物質は生物の代謝経路から生み出されるもので、生物の種類によってその“におい”物質は異なり、各生物特有の“におい”がすることになります。

因みに、匂い物質は推定で数十万種類はあると言われ、花の匂い、カレーの匂いなど、私たちが普段の生活で感じる“におい”は、数百種類の匂い物質が混ざったものであるとことがわかっています。

図1 臭覚構造

匂い分子の感知のされ方は、鼻のなかの鼻腔空間の上部に、嗅上皮とよばれる匂いを感知する粘膜組織があります。片側で1円玉程度の表面積(数cm2)です。嗅覚がすぐれている犬に比べたら人間は40分の1程度の広さだそうです。嗅上皮には、嗅神経細胞という匂いを感知する神経が人間で約500万個ほどあります。

では、嗅神経細胞は匂い分子をどのようにして認識するのでしょうか。においを感じるメカニズムは、実は1990年代になるまで不明で、1991年にコロンビア大学のリンダ・バックとリチャード・アクセルが匂い物質と結合するタンパク質を作り出す遺伝子をみつけて、立体構造説が正しいことがわかりました。そのタンパク質は、匂い受容体あるいは嗅覚受容体と呼ばれています。

五感のなかで最初に失ってもいい感覚はと聞くと、多くのひとは嗅覚と答えるそうですが、人間の遺伝子数2万ちょっとの中で、その数%にあたる遺伝子が嗅覚を動かす遺伝子であるのは非常に高い割合かと思われます。400種類の匂い受容体タンパク質それぞれの匂い分子がはまる鍵穴のような部分の形は400種類の受容体すべてで異なり、鍵である匂い分子が受容体の鍵穴にはまりこむと、受容体の形が変化して、その結果嗅神経細胞が興奮して匂いの電気信号となって脳に伝わる仕組みになっているそうです。

 ところで、“足のにおい”など、においの悪い面だけを私の事例で取り上げてしまいましたが、においはなくてもよいのでしょうか?

 職場での“体臭ハラスメント”、タバコや飲食のにおいなど、雑多なにおい問題は「香害」という言葉になり、「香害110番」ができるほどに日本人は“におい”に敏感で、これほどまでに消臭剤が売れている国はないと言われているそうです。

白人は遺伝的に腋臭体質のひとが多いので、それを消すための香水文化が発達したと言われています。しかし、香水をつけていても、外国の料理は香りがしっかりしているので、食事でも気になりませんが、食材のささやかなやさしい香りを重要視する日本料理では、香水などは基本的に許されません。

また比較的潔癖性な日本人は、「においがある=不衛生」という感覚から、“におい”を消したがりますが、私たちの身の回りから“におい”が無くなって無臭になってもいいのでしょうか?

アンケートで、「五感のなかで一番に失ってもいい感覚は?」と聞くと、ほとんどの人は嗅覚と答えるそうですが、驚くことに、アメリカのグループが、「嗅覚を完全に喪失すると5年以内に死亡する率が他のどの疾病より高くなる」という報告をしています。

確かに悪臭はストレスですが、実は無意識のうちに嗅覚によって多大な恩恵をうけているのではないでしょうか。

 私たちの体臭には、年齢、食べ物などの違いによる個人差があります。さらに、体臭は代謝産物ですから、同じ個人でも、体調によっても変化することになります。病気になると、身体は細菌やウイルスに対抗しようと代謝を変化させるので、体臭は必然的に変化します。

有名な例が糖尿病で、尿中にケトン体という物質が増えるので甘いにおいがします。ガンにも“におい”があり、訓練された犬や線虫は嗅ぎ分けることができると言われています。

体臭の変化は、体調のバロメーターになります。

スウェーデンのある研究によると、細菌由来の毒素をヒトに投与して人工的に風邪をひいた状態にさせて、その人の体臭を別の健康な人に“情報なし”で嗅がせると、そのにおいを避けるという研究成果があります。病気の体臭を発する個体には動物的本能として近づかないというのが正解のようです。

いずれにしても、自分が毎日排泄する“もの”の“におい”がいつもと違うなと感じたら、身体の変調のシグナルかもしれません。多くの場合は、気のせいだったり、食事由来のケースが多いのですが、健康が気になる人や病院嫌いな人は、自分のにおいの変化に少し注意しておくと良いかもしれません。

 ところで、皆さんは、アロマテラピーという言葉をお聞きでしょうか。

アロマテラピーは補完療法の一つで、植物(花、薬草、木など)から抽出したエッセンシャルオイル(精油)を使用し、ほとんどの場合、エッセンシャルオイルを香りとして吸い込んだり、希釈して皮膚に塗布したりする方法で用いられています。ローマンカモミール、ゼラニウム、ラベンダーティーツリー、レモン、ショウガ、など多くのエッセンシャルオイルがアロマセラピーに使用されています。

アロマテラピーはよく不眠に用いられることがありますが、アロマテラピーに関する厳格な研究がほとんど行われていないため、有用であるかどうかはまだわかっていません。

「アロマテラピーは効果があるのかないのかわからない、騙されているんじゃないの?」という声があります。

結論から言いますと、効果はあるそうです。

図2 アロマ

ただ、なぜ怪しいと思われているかというと、

まず、①科学的にどういうメカニズムで効いているのかという根拠に乏しい、という理由があげられるようです。メカニズム的には、○嗅覚刺激によるホルモン系や自律神経への影響、○血中などに溶け込むことによる効果、の二つがあるようですが、実際にはどちらを介しているか容易に結論できない状況にあるようです。

二番目の理由としては、②本当にアロマの効果なのか見極めることが難しい、ということがあるようです。リフレッシュした気持ちになるなどすぐに感じる効果は分かりやすいのですが、継続して使用して身体が健康になる場合、本当にアロマ効果なのか判断は難しいということです。

三つ目の理由としては、③薬のように万人に効くわけでなく個人差がある、といった理由があげられます。香りの好き嫌いは個人差があり、効果があるといわれている香りでも、嫌いなにおいなら効果はでません。つまり、アロマの効果は、その時のその人の心理状態や、その香りに対する主観的な評価によって変わってくるということですから、アロマ効果を信じない人には効果は出ないことにもつながります。

ということは、逆に、アロマ効果が出やすい環境や情報を整えれば、アロマの力が発揮されることにもつながります。

現在、コロナ感染症の流行は、私たちの生活環に大きな影響を与え、在宅勤務が多くなり、会議もZoom会議が多くなっているのではないかと思います。

在宅での気持ちの切り替えに、“香り”を試して見てはどうでしょうか。どんな香りでもいいと思いますが、気持ちをシャキッとしたいとき、仕事に集中したいとき、アイデアを出したいとき、そしてホッとしたいとき、寝る前に身体を癒したいとき、などなど、好きな香りをそばに置いたり、香りの種類を変えてみたり、ちょっと香りを意識してみると気持ちの切り替えができるかもしれません。

“におい”は体調を知るバロメーターになったり、アロマテラピーのように、補完療法で香りを使って心身のケアを行ったりと、“におい”は私たちにいろいろな便益を与えてくれそうです。

 “香り”ある生活を楽しむゆとりを、このコロナウイルス感染症で、室内で生活する時間が多くなった今、改めて「持つ」ことを、皆さんにお薦めしたいと思います。

 皆さんの生活に、潤いと喜びが訪れますように!!

注:画像はすべてフリー画像を使用させていただきました。どうもありがとうございます。


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