皆さんは日本の食料自給率がどれくらいかご存知でしょうか。かくいう私もあまり分かっていないのですが、少し整理しておきたいと思います。
食料自給率とは、私たちが食べている食料のうち、どのくらいが日本で作られているかという割合のことで、料理の食料自給率だったら…そのお料理の材料のうち、どのくらいが日本で作られているかを示しています。 食料自給率には政府が発表するもので、大まかに3種類の計算方法があります。
1. おもさで計算する食料自給率国:内生産量、輸入量など、その食品の重さそのものを用いて計算した自給率の値を「重量ベースの自給率」といいます。
2. カロリーで計算する食料自給率:食料の重さは、米、野菜、魚など、どれをとっても重さが異なります。重さが異なる全ての食料を足し合わせ計算するために、その食料に含まれるカロリーを用いて計算した自給率の値を「カロリーベースの総合食料自給率」といいます。カロリーベース自給率の場合、牛乳、牛肉、豚肉、鶏肉、卵には、それぞれの飼料自給率がかけられて計算されます。
日本のカロリーベース総合食料自給率は令和元年でおおよそ38%です。
3. 生産額で計算する食料自給率:カロリーの代わりに、価格を用いて計算した自給率の値を「生産額ベースの自給率」といいます。比較的低カロリーであるものの、健康を維持、増進する上で重要な役割を果たす野菜や果物などの生産がより的確に反映されるという特徴があります。日本の生産額ベースでの総合食料自給率は令和元年度でおおよそ66%です。
ここで政府が公表したくない自給率に、穀物自給率がありますが、日本の穀物自給率は27%(平16)と極端に低く、また人口規模も大きく、諸外国からの膨大な輸入によって生存を維持していることになります。穀物自給率は、家畜は国内生産でも、家畜を成長させる穀物は外国に依存しているとき、穀物自給率は0%になる場合もあります。
いずれにしても、日本の畜産物は外国の穀物がなければ賄うことはできません。
ところで、ウクライナ危機は農産物価格を高騰させており、アメリカシカゴ市場の小麦先物は2008年3月に記録した史上最高値を更新し、国連食糧農業機関(FAO)が算出する食料価格指数も過去最高を記録したと言われています。
ウクライナは世界有数の農産物輸出国で、肥沃な「チェルノーゼム」を背景に、ロシアとウクライナを合わせた小麦輸出量は2020~2021年度に約5600万トン、世界の28%とアメリカとカナダを合わせた輸出量よりも多くを輸出しています。
こうしたロシア・ウクライナ両国が戦争で混乱し、小麦やトウモロコシ等の穀物生産に支障をきたすようになった場合、世界の穀物市場の混乱は大きくなることが予想されます。
一方、近年中国をはじめ、新興国が台頭して需要が急拡大していることと、頻発する異常気象も需給に大きな影響を及ぼすことを考えると、今後の世界における食料問題は深刻化する恐れがあります。
アメリカでは急騰するガソリンの代わりにトウモロコシ由来のエタノールの需要が急増しており、トウモロコシ価格を押し上げています。アメリカシカゴ商品取引所のトウモロコシ先物価格は2022年4月20日に、2012年8月に付けた1ブッシェル8.49ドルに迫る“8.10”ドルを付け、その騰勢の勢いはまだ衰えていません。またアメリカ農務省によれば、世界の2021~2022年度の期末在庫率は25.5%程度と、消費の3か月分にしか過ぎないと言われています。
トウモロコシの最大輸入国は、同時に生産量も世界第2位と大きい中国ですが、現在中国では「ゼロコロナ政策」で農民が農地に出られず、作付けに支障が出ていると言われています。
中國では豚が国民の基本的なたんぱく源であり、経済成長著しい中国でのトウモロコシ生産が停滞すると、従来はアメリカに加えて多くをウクライナからの輸入で賄っていた分をアメリカ産で穴埋めすることになり、トウモロコシ価格は更に高騰することが予想されます。
こうした最近の世界情勢に加えて、国連食糧農業機関(FAO)は、2020年11月に「世界食料農業白書:2020年版」を発表し、この中で、
『30億人を超える人々が、高から非常に高いレベルの水不足の農業地域に住んでおり、1人あたりの利用可能な淡水は過去20年間に世界全体で20%以上減少し、特に最も多く水を利用する農業部門では、「より少ない水でより多くの生産をすること」の重要性が言われています。
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そして現在、米国のオガララ帯水層の枯渇問題が世界的に問題になっています。オガララ帯水層は、北アメリカの大穀倉地帯の地下に分布する浅層地下水帯で、日本の国土面積を超える広さを持っていると言います。
穀物生産には莫大な量の水が必要で、カンザスの穀倉地帯はオガララ帯水層の地下水に頼って生産されていますが、実はこのオガララ帯水層の地下水が枯渇しつつあることが明らかになっており、現在、この帯水層は地表から100メートルの地点にありますが、この50年間で水位は60メートルも下がり、あと30メートルしかないとされています。そして、早ければあと10年でオガララ帯水層の地下水はなくなるともいわれ、遅くとも50〜70年には枯渇すると推定されています。』と言い、
東京大学教授熊谷朝臣氏の「地下水資源から占う穀物生産の未来」でも、「何の改善もなくオガララ帯水層からの取水ペースが現在のように続けられれば、高収量南部地域の穀物生産は崩壊し、世界の食糧安全保障に影響します」としています。
カンザス州、オクラホマ州などの大穀倉地帯をカバーしているオガララ帯水層が枯渇すれば、アメリカ穀倉地帯での年間5000万トンにも及ぶ穀物生産が困難になり、多くをアメリカ産輸入穀物飼料に依存している肉用牛、養豚、養鶏、酪農などの日本の家畜生産は非常に厳しくなることがを予想されます。
現在の日本の畜産業からの声をちょっと拾ってみたいと思います。
1.宮城県大崎市の田んぼでトウモロコシを生産
91ヘクタールの田んぼでトウモロコシを育て、収穫量や機械化を進めた際のコストなどを検証。
JAによると、家畜の餌になるトウモロコシ産地の一つであるウクライナにロシアが侵攻したことで、価格が2021年末と比べ4割ほど上昇し、他にも肥料などいろいろな資材が値上がり。
2.福島県田村市
ある農家の言。
原油高騰で牛舎の運営コストが増えたところに、餌代の飼料価格も以前の1.5倍になり経営が苦しい。
3.広島県、熊本県
新型コロナウイルスの影響による外食控えや、訪日する外国人が途絶えたことで需要が激減したために、黒毛和牛の流通価格が下落し、畜産農家の経営を直撃(加えて輸入濃厚飼料の価格高騰中)。
日本の畜産業への影響は非常に大きいものが感じられます。特に日本の畜産業は輸入飼料に頼っていますから、コロナウイルスによる需要の減退、ロシア・ウクライナ紛争による石油、資材価格の高騰に加えて、円安が畜産業界に与える影響は無視できないものになると思われます。
ちょっと話がずれるかもしれませんが、中国の冷凍餃子について記載させていただきます。
2007年12月から08年1月にかけてジェイティフーズが輸入した中国製冷凍ギョーザを食べた千葉県と兵庫県の家族10人が下痢や嘔吐などの中毒症状を起こし、うち3人が意識不明などの重体となった事件がありました。
中毒事故を起こした冷凍ギョーザは、すべて中国の天洋食品が製造したもので、冷凍ギョーザから日本では使用が禁止されている農薬「メタミドホス」が検出されました。
中国製冷凍ギョーザの中毒被害を保健所などに届け出た人は2745人、うち884人が医療機関で受診していたといいます。
簡単に経緯を見ますと、
2007年12月28日:千葉県千葉市の家族2人が中国製冷凍餃子を食べ食中毒の症状を訴え入院。
2008年1月5日:兵庫県高砂市の家族3人が中国製冷凍餃子を食べ食中毒の症状を訴え入院。
2008年1月22日:千葉県市川市の家族5人が中国製冷凍餃子を食べ食中毒の症状を訴え入院。
2008年1月30日:千葉、兵庫県警は餃子とそのパッケージからメタミドホスを検出し、中毒事件として捜査を開始。
2008年2月3日:中国政府が専門家チームを日本へ派遣。
2008年2月4日:日本政府、中国へ調査団を派遣。
2008年2月15日:警視庁、メタミドホスは日本製ではないと断定。
2008年3月13日:
千葉・兵庫県警共同捜査本部は、千葉県市川市の家族が食べた餃子の嘔吐物から、極めて高濃度のメタミドホスを検出したと発表。 メタミドホスは意図的に混入された可能性が高いことを示唆。
2008年8月28日:中国政府、メタミドホス混入は中国国内での可能性が高いと表明。
2010年3月27日:中国警察当局は毒を混入させた犯人として中国人男性の身柄を拘束。 容疑者は天洋食品の元臨時従業員、呂月庭(36)。 天洋食品の賃金や待遇に不満を持ち、その報復として注射器を用いて餃子に毒を混入したと供述。
ということでした。
食料の安全保障
現在のような状況で、これからもしものことがあった場合、私たちの生命は守られるのでしょうか。
食料安全保障には、①量的安全保障と、②質的安全保障の二つがありますが、①の量的安全保障はトウモロコシのエタノール化に見られるように穀物の工業原料化が進み、価格が急騰しつつあり、加えてロシア・ウクライナ紛争、そして円安で価格が上昇しています。
日本は生産手段の確保として、土地利用制度に配慮して、農地を保全していく必要があると思われますが、十分ではありません。そして、農業後継者は高齢化しており、いつまで日本で農業生産が確保できるか不明なところが多々あります。
また、②質的安全保障は、中国の冷凍餃子に見られる事例や、環境汚染地域からの輸入ものにも注意する必要がありますが、大量の輸入農産物を前に、そのトレーサビリティは十分ではありません。
いずれにしても、私たち日本人は低い食料自給率、円安、国際紛争激化の兆候、その他からして、心して、食料問題、食料危機ついて、真剣に考えていかなくてはならない時期に来ているのではないでしょうか。
各家庭では、何かに備えて食料貯蔵が大切になるかもしれません。ご用心のほどを。
注:画像はすべてフリー画像を利用させていただいています。ありがとうございます。