日本は貧しい国ですか?


 現在日本は2022年4月13日の外国為替市場で1ドル126円台前半まで円安が進み、外国為替市場では動揺が続いています。世界的なインフレで各国が金融引き締めに動き始める中で、さらにロシア・ウクライナ戦争により原油や穀物などの国際商品市況は高騰しており、アメリカ連邦準備委員会(FRB)は0金利政策の解除を決定し、長期金利は昨年末の1.5%から2.7%台にまで上昇しています。

こうした世界的な金融政策に逆行する形で、日銀は0金利政策を継続すると明言しており、円安に歯止めが利かなくなりつつあります。

日銀の0金利政策の継続は、公債金利負担軽減のための措置ですが、わが国はそれほど多額の公債を保有しているのでしょうか。

図1 利払いと公債残高の推移

 図1を見れば、わが国の公債残高は2021年現在で約990兆円で、金利は2019年現在で約0.9%、利払費は2021年で約8.5兆円規模となっています。公債残高は増えていますが、金利水準を低減させることによって利払費が2005年頃より一定水準で推移している様子が分かります。

 すなわち、日銀は公債償還額を低く抑えるために0金利政策を継続しており、発行公債債務が大きくなる現状では0金利政策はこのまま日本では継続されることになります。

政府はこの発行公債残高を“国の借金”と言い、日本は貧しくなっていると公言しています。

では、政府が言っていることが正しいか、検証してみることにしたいと思います。

最初に、資金の動きを見てみたいと思います。少し面倒くさい図になりますが、お許し下さい。

図2 政府・民間・日銀間の資金の動き

 まず最初に政府がXで公債を発行します。それを民間に売ることで(ここでは民間銀行にしています)、政府には“資金”が入ります。この資金を政府はAにおける財政出動で民間企業に補助金などで資金供与します。民間企業はこの資金で研究開発、設備投資を行い、景気を回復させます。

一方、政府から公債を購入した民間(ここでは民間銀行)は、日銀が公債の買い入れを行うという情報から日銀に公債を売ります。こうして、政府が発行した公債は日銀が所有することになります(日銀が引き受けると言った量だけのの公債)。

こうして引き受けた日銀の公債は、政府に資金があれば、政府が買い上げれば、それによって公債の償却は終わります。

しかし問題は政府には資金がないために発行公債を引き受けることができず、その資金を確保するために新たな公債を発行して借り換えをしており、借り換えと新規発行公債が積み重なって発行公債990兆円ということになっています。そして金利が高くなると返却利子が高くなるために、金利を低く抑える“金融緩和”が実行されているのが現状です。

しかしここで図を見れば、日銀が確保している公債は、日銀が日銀券を増刷すれば償却できるものであり、日銀券増刷で日本が倒産することなどありえません。

通常これを財政ファイナンスといい、これを乱発すれば金融モラルが壊れるということで、法的には禁じられていますが、やむ負えない場合には国会審議で財政ファイナンスは一部了承されることができます(当然だと思います。財政ファイナンスなど、国が勝手に決めたことによって、国が破綻して良い訳がありません)。

一般に財政ファイナンスをすれば、ハイパーインフレーションになると言う識者が多いのですが、それはファイナンスした資金を一気に市場に流せばハイパーインフレーションになります(990兆円の資金を一度に市場に流せば確かに必ずハイパーインフレーションになると思います)。

しかし、その資金を徐々に流せば良いのであって、インフレが3%前後に収まるように調整すれば良いだけの話になります。

そしてさらに言えることは、日銀が日銀券を増刷すればよいと言いましたが、何も日銀券を刷る必要はありません。

会計処理はすべて財務会計上、帳簿に数字を記入すればよいので、日銀が貸借対照表に数字を記入するだけで、ことは足ります。

こうすれば、日銀に紙幣を保管する必要もなければ、刷る必要もなくなります。そして必要となれば、必要な金額だけを刷ればそれでことは足ります。

では極端な話、日銀が990兆円の公債をすべて引き受けた場合を想定すればどうなるでしょうか。

日銀は財政ファイナンス可能という条件があれば、990兆円の資本を持つことになります。これを日本人が持つ預金という言い方をすれば、従来の財務省が言っていた“日本人一人当たり900万円の借金”が、逆に“日本人一人当たり900万円の預金”ということになり、日本人は大金持ちになります。

したがって言えることは、日本経済の浮沈がかかっている現在は、“財政ファイナンス”を解禁(一部)し、節度ある資金運用によって、至急日本の景気を良くする方策を実行することも必要だと言えます。

そしてもう一点、日本の市場ではマネーサプライの伸びが世界に比べて格段に低いことの原因は、公債発行によって資金供給が増えたという錯覚によって、資金供給を抑えていることによります。

もう一度図2を見ます。 

公債発行に、どこの資本を政府は使っているのでしょうか。それは民間資本です。そして、その民間資本が補助金などになって研究開発費、設備投資資金になって市場に拡散されます。

言い換えれば、財政政策に利用する国債は、低生産性の民間資本を、研究開発・高生産性部門へ再分配するに過ぎず、資金が民間で増えることを意味していません。

政府はこうしてマネーサプライを増やさないで、公債発行によって資金の再配分を行いながら、実はその資金を社会福祉などに利用する一方、研究開発、設備投資部門から引き揚げつつあるために、日本はますます低生産性国家に転落し、低生産性のためにデフレが加速し、日本の未来は危ういものになりつつあります。

もう一度、整理してみます。

1 財政ファイナンスを一部解禁し、適正な資金運用をすれば、3%インフレは達成できる。

2 財政ファイナンスを解禁すれば、基本的に日本国民900万円の借金は900万円の預金に変わる。

3 財政ファイナンスを解禁すれば、財政破綻はあり得ず、一部解禁による適切な資金運用をすればハイパーインフレーションは起こらず、資金を経済成長に有効に使うことができる。

4 公債発行による財政政策は、あたかも多額の借入資本によって借金だけが増えるといった論調が多いが、公債発行による財政政策は、基本的に低生産性部門から高生産性部門への資金移動であり、現在問題となっているのは、低生産性部門から将来性のある部門ではなく、同じ低生産性部門への資金の再配分であり、日本経済発展に役立っていない。

5 財源不足と言われているが、財政ファイナンスを一部解禁すれば、必要な投資資金は調達できる。

6 財政ファイナンスを解禁して困る周辺国は存在しない。財政ファイナンスを解禁すれば国の信用を失い、財政運営に支障をきたすとあるが、他国に大きな負債を抱えていないわが国では、財政ファイナンス解禁の問題は基本的に日本一国の問題であり、その解決はほぼ技術的処理で解決できる。

 特に資金供給が極端に不足しているわが国では、財政ファイナンス問題は避けて通れない問題と思われる。

7 一番の大きい問題は、財政ファイナンス解禁の問題を俎上に載せる勇気ある政策担当者がいないことにある。

 例えば、財政ファイナンスの一部解禁を、経済成長路線に乗るまで、またはインフレ率3%達成まで、というふうに条件を付けて考えるなどの融通をきかせる方策がとれないか、真剣に議論する必要があると思われます。

 

いずれにしても、日本は貧しいのではなく、現在の貧しさは資金循環を日本政府が的確に把握していないために起こっている政策ミス、極端から極端に走る論調、例えば財政ファイナンスを取ればすぐにハイパーインフレーションになるとかの論調などなどによるものが大きく、的確な政策が取りにくい状況にあることによるのではないかとも思われます。


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