近年の技術進歩は非常に激しいものが見られ、人工知能(AI)が人間の能力を超えるシンギュラリティ(技術的特異点)が来るのも間近と思われてる現在、演算処理速度が現代の大型コンピュータの数億倍ともいわれる量子コンピューターが実用化の段階に入っています。
このAIと量子コンピュータを併用して使うことにより、従来では考えられないような新素材を、非常に短期間に開発できるようになり、私たちの生活は飛躍的な進歩を遂げると言われています。
IBMのダリオ・ギル氏は今後、ノートPCで作動するマシンラーニングソフトウェアが、全ての学術研究論文に数秒で目を通し、莫大な分野にまたがる知識・情報の体系処理を、数週間・数課か月で完了させる時代が来ると語っています。
しかし、AIと量子技術を駆使して新素材を開発する取り組みはすでに実用段階に入っており、わが国の日本ゼオンと産業技術研究所などは「蓄電池の大容量化などに有用な炭素材料の性能をAIで予測」したり、三菱ケミカルなどは発光材料の電子状態を量子コンピュータで再現したりしています。
情報技術を駆使して材料開発を効率化する技術を「マテリアルズ・インフォマティックス(MI)」と言いますが、MIは日本では日本ゼオンと産総研などが、カーボンナノテューブの性能予測にAIを使い、AIは2~3種類のナノチューブを様々な割合で組み合わせて作った膜の構造や性能を予測できるようになり、1時間で2000種近くの幕の性能を予測できたと言われています。
これを通常の方法で行おうとすると年単位の時間がかかり、コストの節約以上に開発スピードが上がることによって、世界との競争に有利になることが言われています。
旭化成、三菱ケミカル、三井化学、住友化学と物質・材料研究機構は、エックス線で調べた測定データと材料の強度などの性能データをAIに学ばせ、少ない実験で材料の性能を予測できる新たな方法を開発しました。
世界はMIを将来の産業技術の優劣を左右する重要なテーマと位置付けて、投資を拡大しています。アメリカは材料の開発期間を半減させるなどとして「約5億ドル」を、EUは2015~18年に「約5000万ユーロ」、中国は2016年~21年に「3億元」を投じ、長期計画を進めています。
日本は2014年から内閣府のプロジェクトでMIに取り組んでいます。矢野経済研究所の予測では、MIなどによる有機材料の世界市場は2025年の6200億円から2030年には1兆4000億円市場に膨らむことが予想されており、産学官が協力して研究を推進する必要があると言われています。
過去、世界の約50%のシェアを持っていた半導体や、また蓄電池などの開発競争でも負け続けてきた日本の将来は、今後拡大が見込まれる脱炭素市場でも出遅れれば、厳しい状況に追い込まれ、日本の将来は厳しいものになることが予想されるものになっています。
日本の研究開発状況について見ておきたいと思います。
1 日本の研究開発費の動向
わが国の研究開発費は図1、2から、2007年頃を境に、減少、ほぼ横ばい状況にあることが分かります。
2 研究論文数の推移
わが国の研究論文数は、2000~2005年頃を境に、急激な落ち込みを見せています。
3 特許出願件数の推移
特許出願件数は、2005年頃をピークに、減少を始めています。
2004年、小泉 純一郎の聖域なき構造改革により、大学も国立大学法人化を機に、文部科学省の運営費交付金は毎年約1%ずつ削減され、1兆2415億円から2018年度は1兆971億円と約12%の減少となっています。
この削減は研究教育の基盤的経費が15%~18%削減されたことに相当しますが、大学運営の基本である教育経費は削減できませんから、結果的に予算削減のしわ寄せは研究費の大幅な削減となりました。
この法人化と同時並行で進められたのが、「研究予算の選択と集中」による競争的資金の科研費(科学研究費補助金)でした。
この財政問題の決定権は最終的に財務省にありますが、その財務省の中心は法学部出身者に占められており、理工系の本質や、ものづくり技術を支援する人材がいない状況にあります。
そして、大学評価の基準は注目研究重点主義にあり、若い研究者は現在流行中の短期的に成果の出やすい研究に走りがちになりますが、任期制の助教から身分が安定する准教授、教授になる時に評価されるのが発表論文の数になりますので、どうしても若手研究者は論文の書きやすいテーマに流れる傾向にあります。この弊害は極めて大きいものと思われます。
ある識者は、「信頼できる第3者機関による評価が期待できない現状では、研究費の“選択と集中”をやめ、研究費配分は個々の大学に任せ、大学ごとに特色ある研究・教育に戻すべきであり、多くのノーベル賞受賞者がこの点を強く指摘している」と言っておられます。
論文数の減少、特許出願数の減少と研究開発費の相関を見るとき、明らかに研究開発費の減少、削減は論文数の減少、特許出願数の減少に繋がっており、その研究開発費の増額をPB遵守に固執する財務省は基本認めず、世界の発展に乗り遅れようとしています。
研究開発の一側面であるこの文部科学省の運営費交付金の削減は、財務省のプライマリーバランスの健全化、PB遵守から来ています。
日本経済が浮沈の瀬戸際にある中で、財務省は今でもPB遵守を主張し、日本を世界の発展から落後させようとしていると言っても過言ではないと思います。
PB遵守を20年、30年続けてきて、なお日本経済が復活しないのは何処かに経済上の問題があるからだと気づいて欲しいものですが、法学部出身の官僚が多い財務省には経済の本質を理解できる人材がいないのかもしれません。
確かに、法学部出身の財務官僚は経済を勉強し、経済的知識を増やすことができるかもしれませんが、現実の経済は教科書通りには動かないという事実を認めることができないために、20年、30年と不況が続いているのかもしれません。
しかし、間違った経済政策で生活を破壊される国民はたまったものではありません。
日本の投資状況を見るために、研究開発を事例的に取り上げましたが、技術進歩が急速に進みつつある現在、研究開発、また重点分野への積極的投資を控える財務省は、この熾烈な経済戦争に負けを日本に進める「日本最大の反日組織」と言える組織かもしれません。
注:画像はすべてフリー画像を使用させて頂きました。ありがとうございます。