岸田総理の新資本主義とその成立条件


岸田首相の新資本主義の成長戦略は大胆な投資を前提とした、①科学技術によるイノベーションの推進、上場を果たしたスタートアップが更に成長していけるように、スタートアップ環境の強化、大学改革と大学における研究と経営の分離、②「デジタル田園都市国家構想」による地域活性化、海底ケーブルによるスーパーハイウェイデジタル田園都市の完成、世界最先端のデジタル基盤と自動配送、ドローン宅配、遠隔医療、教育、防災、スマート農業などの実践、③気候変動問題への取り組みと2050年カーボンニュートラル、火力発電の0エミッション、アンモニア・水素への燃料転換、④経済安全保障(サプライチェーンの強じん化)における半導体の国産化、人工知能、量子・ライフサイエンス、宇宙、海洋における研究開発投資などが挙げられ、以上の4つの基盤作りを中心にこの分野への民間投資を呼び込み、経済成長も実現させることがその主なものになっています。

現在世界は中国を中心に、大きく動き始めています。

ここで、中国の近年の発展過程と発展過程の特徴を見ることによって、中国の本質、価値観を見ておきたいと思います。

1949年10月1日、毛沢東の中華人民共和国が誕生しました。そしてその後、鄧小平 (1978年12月 -1989年11月年)、江沢民(1989年11月~ 2002年11月)、胡錦濤(2002年11月~ 2012年11月)、習近平(2012年11月~ 現在)が政権を引き継いできました。

毛沢東の共産社会では経済活動はすべて国営で行われ、一見平等な社会が築かれたように見えましたが、しかしそれは悪い意味での平等で、当時の国営企業に勤めていた労働者はいくら一所懸命に働いても、逆に遊んでいても同じ給料が支給されるということで、労働者は悪い方向に流され、誰もが遊んで給料をもらうようになり、中国の生産性は大きく落ち込むことになりました。

そして朝鮮戦争以来、西側諸国との関係が途絶えた中国の技術革新は取り残され、技術進歩はほぼ無くなりました。

皆さんはご存知でしょうか。山崎豊子氏が発表した「大地の子」は、戦争孤児であった”一心” が『小日本鬼子(シャオリーベンクイツ)』の悪口に耐え、凄まじいばかりに辿った生き様を描いた秀作ですが、それはこの時代のものでした。

こうした現状に警鐘を鳴らし、極貧の毛沢東の共産主義体制を変革し、中国の経済発展を意図した人は“鄧小平”でした。鄧小平の「白猫でも黒猫でもねずみを捕る猫がよい猫だ」という「白猫黒猫論」は当時日本のマスコミに盛んに取り上げられ、有名になりました。白猫を「資本主義」、黒猫を「共産主義」、ネズミを捕ることを「経済発展」に置き換えますと、「資本主義であろうと共産主義であろうと、経済発展をさせるならどちらの体制でも問題ない」ということで、中国は毛沢東の共産主義体制から資本主義を取り入れた共産主義体制へと大きく舵をきり直すことになりました。

当時、中国はこの新しい中国の経済体制を「社会主義市場経済」といって、西側と一線を画するもの

と捉えていました。

図1 中国GDPの推移
出所:中国統計年鑑

図1をご覧になると分かりますように、1978年(昭和53年)の頃には為替レートは1ドル1.58元と、とても高いことに気付きます。そしてこの頃は、貿易収支は赤字です。経済は停滞し、中国は世界でも最貧国の一つに数えられるほどでした。

しかし、その後劇的な変化が生まれます。

1993年、アメリカのビル・クリントン大統領が日米貿易不均衡で円高圧力をかけ、円は1993年1ドル111.2円から1995年には94.1円へと急騰することになります。

 その結果、元安が急ピッチで進む中国に日本企業は雪崩を打って進出することになります。図1によれば、1993年から中国への外資が急激に伸びていますが、それは円高に苦しむ日本企業が大挙して中国進出を果たした結果に過ぎません。その後、欧米も後に続き、中国は世界の工場と言われる地位を築くことになり、貿易収支は完全に黒字化し、中国発展の基礎がここに確立することになりました。

 しかし、この当時の中国の外資誘致の仕方は西側諸国にはない、西側諸国の貿易・投資ルールの盲点を突いたものであり、そこにその後の中国の本質が窺われるものになっていたのですが、誰もそのことについて異議を唱え、また貿易・投資の世界共通の暗黙の常識を守るように進言する国は現れませんでした。

 中国は言います。

  • 中国で投資する場合、合弁企業(他に独資、合作、駐在員事務所)を形成し、その場合出資比率は中国51%以上、進出企業49%以下にすること。

※目的は中国側が経営決定権を掌握すること。

  • その場合、合弁企業の投資内容は基本的に、

○中国側の投資:土地(貸付)、労働力の提供

○進出企業の投資:技術、資本の提供。

※目的は過剰な中国国内労働力の吸収と海外進出企業から技術と資本の移転を図ること。

 そしてその後も、

 「中国に輸出する企業は、その商品の技術開示を行うこと」など、凡そ西側諸国が思いもしない要求を突き付けてくるのでした。

 中国の企業文化をご紹介しておきたいと思います。

 かの有名な「ファーウエイ」についてアメリカが調査した結果ですが、ルーター機器を扱う米企業の従業員を引き抜き、ソフトの設計図に当たるソースコードの持ち出しを依頼しスパイをさせます。また競合他社から秘密を盗んだ従業員の表彰制度を設け、盗んだ情報を社内サイトに投稿するように指示し、最も価値のある盗んだ情報を提供した社員にはボーナスが支払われていたと言います。

 国も企業も一体となって不正・反モラルに手を染め、経済成長を果たしてきた様子が窺われるものになっています。ここに、中国の本質を窺うことができます。

 中国では「だます方が良く、だまされる方が悪い」と、凡そ西側とは真逆の価値観を有しています。こうした社会風土であれば、スパイをされて情報を取られた方が悪くて、取った方が正しいことになり、取った者が表彰されるという行為も理解できます。

 中国は様々な方法で西側、特にスパイ防止法がなく、処罰の対象にならない日本から多量の技術を不正に取得し、そして技術革新が急速に進み、2011年にはGDPで日本を追い抜き、世界第2位の経済大国として君臨することになりました。

 経済成長とともに、軍拡にも力をいれ、防衛費はGDP 比年率10%以上の高率で拡大しています。アメリカ、オバマ大統領が2015年8月、「アメリカは世界の警察ではない」と言ったあと、中国の南沙諸島の領有、軍事要塞化が加速、完成し、中国の拡張主義、領土的野心が明確になってきました。

図2 中国南沙諸島の軍事要塞化

 そして中国は何の目的のための法整備か分かりませんが、法整備も着々と進めており、そこでは国防動員法(2010.7)・国家情報法(2017.6)など、戦争になったら諸外国に住んでいてもスパイとして、また中国人として中国を支援するように指示が述べられています。

 中国は、つい最近まで極貧の中で生活していましたが、現在は西側諸国が道徳上考えもつかない発想、法整備などで、中国の野望を遂げようと画策しているように見えます。

 そして、ロシア・ウクライナ戦争が始まりました。ロシアはプロパガンダでロシア国内ではいろいろと国民に有利になるような情報操作をすることによって、プーチン大統領の支持率は80%の高率と言います。

 ロシアが北方領土についてどのような考えを持っているかと言えば、北方領土はロシアのもので、北海道の「アイヌ」はロシア人が北海道に移住したものであるから、北海道はロシア領だと、北方領土だけでなく、北海道の領有権まで主張し始めています。

 これと同じことが沖縄県についても言われています。沖縄県は明治になるまで中国清に朝貢していたから、沖縄の統治権は中国にあり、沖縄は中国の領土であると中国は主張し始めています。

 日本を巡る世界情勢は、中国、ロシアという巨大国家の拡張主義によって大きく変わろうとしています。

 特に19世紀、20世紀初頭に大きな災難に遭遇した中国は、その穴埋めを兼ねて、過去列強が信奉した帝国主義の挙に出る可能性は、これまでの中国の行動から十分に予想されます。

 岸田総理の新資本主義が滞りなく進むためには、まず初めに21世紀の新帝国主義に走る「世界の大きな変革」に適切な対処ができるかどうかに、まずかかっているものと思われます。

 日本国憲法9条と国防、日米安保条約、集団的自衛権、自由民主主義陣営と独裁共産主義陣営間の経済安全保障問題などに確実にある解が得られないと、岸田総理の描く夢は難しいことが想像されます。

 そして、体内的な問題は、緊縮財政下で如何なる経済成長の夢を描き切ることができるかというところにあるものと思われます。

 緊縮財政から抜け出すことのできない日本に、新資本主義が目指す「経済成長」はありません。

 現在日本はデフレ基調の最中で、物価が高騰するという「スタグレーション」の入り口にいますが、この「スタグレーション」、「デフレ」を解決する手段がない限り、岸田総理の新資本主義はないものと思って差し支えないものと思われます。

 そして岸田総理は新資本主義の中で、エネルギー政策への表明がほとんどなく、今後EV化、そして電力消費が格段に多くなるデジタル社会が到来したとき、莫大な電気エネルギーが必要になってくるのですが、それへの回答がなされておらず、また原子力発電に関して無視の姿勢を貫いています。原発政策が滞る場合、日本のエネルギー政策は大丈夫なのでしょうか。

 世界は原発の危険性は知りつつも、ロシア・ウクライナ紛争から原発開発に向けて動き始めています。

 未来社会を切り拓く「新しい資本主義」を標榜する岸田政権に、今後様々な課題が出てくると思われますが、正しい道を、勇気をもって選んでいただき、日本を再び発展させて頂きたいと切に期待するものです。

注:画像はフリー画像を使用させていただきました。ありがとうございます。


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