皆さんの中で、お酒は“百薬の長”ということで、お酒をお薬のように考えておられる方はおられませんか。
確かにお酒を適度に飲むと心地よく、気持ちがおおらかになってきます。ただし、やけ酒は違いますが。
紀元前3世紀末、劉邦が興した漢王朝は、その後、およそ四百年間中国に君臨しましたが、そのちょうど中頃、西暦8年から23年にかけて、「新」という王朝に取って代わられました。そのために、漢王朝は「新」を挟んでそれぞれ「前漢」「後漢」と呼ばれています。
「新」を建国したのは、漢の元帝(前48~前33年在位)の皇后の甥にあたる王莽という人物ですが、王莽は12歳の平帝を毒殺して、わずか2歳の孺子嬰(じゅしえい)を擁立し、その後自ら皇帝の位につきます。ここに国号を「新」と定め、一旦「漢(前漢)」の命脈は途絶えました。
王莽は皇帝になると、儒教に基づいた復古的な政策を施行し、かつて孔子が理想とした周公の政治の再現を目指し、その当時の官制を伝える書物『周礼(しゅらい)』に基づいて、太古の時代にもどるかのような制度を進めていきます。国による物価統制もその一つですが、その中に、次のような一節があります。
「塩は食物に最も肝心なもの、酒は百薬の長、鉄は農耕の基本となるものであり、名山や湖沼は、狩猟や採集、漁業の豊饒な倉庫である。」
生活に必要なものとして、塩や農耕用の鉄器と並んで酒が挙げられ、「百薬の長」、すなわち「多くの薬の中でももっともすぐれているもの」として述べられています。ここから後世、酒をよいものとして擁護する言い回しとして「酒は百薬の長」が広まったようです。
イギリスの医学者マーモット博士は、10年間にわたってアルコール飲酒量と死亡率との関係を調べた結果、適量飲酒者は全くお酒を飲まない人や大量に飲む人に比べて長生きするという結果を得ました。
その理由は適度のアルコールは心臓病などの循環器系疾患の発病を抑えるためといわれています。
またアルコールには、善玉コレステロール(HDL)を増加させる作用、血小板の凝集を抑制する作用、そしてストレスを軽減する作用があるため、心筋梗塞や狭心症が予防されるとも言われています。
マーモット博士以外にも多数の科学者が飲酒量と死亡率の関係を統計的に処理し、心筋梗塞や狭心症の予防に有効なアルコール量を算出しています。その結果から導き出された適当な飲酒量は、個人差がありますが、一般に日本酒では1日1合から2合、ビールなら大びん1~2本が適量といわれています。
最近の研究では、日本人に多い脳梗塞は、飲酒経験のある人の方が少ないといわれており、アルコールで血栓を作る血小板の機能が落ちるので、脳梗塞のリスクが減ると言われています。その他にも、次のようなメリットがあるそうです。
- HDL-コレステロール(善玉コレステロール)増加
- 末梢血行改善(冷えを改善)
- ストレスを解消
- コミュニケーションの場を作る
しかし、お酒による悪影響もあり、例えば、食道から大腸までを含む消化管の悪性腫瘍に関しては、飲酒によりリスクが増加する傾向があると言われており、また、飲酒直後は血管が拡張するので、血圧が下がりますが、長期的には高血圧の原因にもなっているとも言われます。
飲酒による総死亡率ですが、飲酒しない場合と比較して、日本酒換算で3合までの飲酒の習慣がある人は死亡率が低下し、4合を越えて飲酒する習慣がある人は増加する傾向にあると言われています。
どうも、百薬の長とは言えないかもしれませんが、悪いとも一概には言えないようです。
いずれにしても、どんなによいお酒でも、飲みすぎは体に悪影響で、また、適度な飲酒がよいからと、元来飲酒習慣がない人やアルコールに弱い人が無理に飲酒をしても、良い結果が得られるとは考えない方がよさそうです。
お酒はおいしく、気持ちよく飲むことが肝要かと思います。
こうしてみると、お酒は自動車事故を起こす元凶のようにみられて悪者扱いされる昨今ですが、お酒をよいお友達にして適量を楽しむなら、良い飲み物とも言えそうです。
お酒の良し悪しを知って、お酒をよいお友達にして元気な体を作っていただきたいと思います。
安いものが良いということで、大量の食料、食品を海外から輸入していますが、そのために日本の農業自体が縮小、解体の憂き目を見ようとしています。
しかし、世界のエネルギー問題、紛争などをみるとき、食料は戦略物資でもあり、日本の安全保障は非常に脆弱で脆いものになろうとしています。
戦後、“水と安全はタダ”ということを誰か言ったと思います。日本人は長い間“水と安全はタダ”と思い込んできたように思いますが、独裁国家が大きな力をもってきた現在、これまでのような考え方、行動パターンでは必ず日本は大きな困難に直面することになるものと思われます。
日本酒の原料である“お米”が取れなくなった暁には、お酒をこよなく愛する“お酒党”の皆さんはつらいことになるかもしれません。
そうした世界が訪れないことを願いつつ、皆様のご健康をお祈り致します。