環境ホルモン、忍び寄る危機


環境ホルモン

 レイチェル・カーソンが1960年代、「沈黙の春」で化学物質による野生生物の異変を警告してから40年後、シーア・コルボーンは「奪われし未来」で、化学物質が動物の間で生殖異変を起こしつつあることを指摘しています。極々微量の化学物質があたかもホルモンのような働きをして、生殖異変を起こすのです。このことは私たちに何を警告しているのでしょうか。体内に入る化学物質の危険性について私たちはよく理解しておく必要がありそうです。

 ここで、その概要をご紹介いたします。

 1996年、シーア・コルボーンが「奪われし未来」を刊行して以来、環境ホルモン(内分泌攪乱物質)は多くの人々の間で話題になってきました。私たち脊椎動物は特徴として、「神経系」と「内分泌(ホルモン)系」という2つの情報系を有しています。この情報システムとしての「ホルモン系」は、受精卵が細胞分裂を繰り返して個体が出来上がっていく発生過程をコントロールしています。

 生殖系や脳神経系、免疫系など、個体が大きくなる過程で遺伝子のスイッチを“オン・オフ”する役目を担っているのがホルモンです。したがって、ホルモンは適切なタイミングで適切な量が供給されなければ、様々な異常を生み出すことになります。

 メスもオスも遺伝子を有する染色体にXXとXYの違いがあるだけで、個体発生の前段階ではすべてメスです。しかし、オスの場合には個体発生の初期、Y染色体上の性決定遺伝子にスイッチが入り、多量の男性ホルモンに暴露されることによってオスになります。そしてメスの場合には男性ホルモンに暴露されないのでそのままメスになります。

 言い換えれば、メスの遺伝子を持っていても、オスになる個体と同じ時期、同じ量の男性ホルモンに暴露されれば、その個体はオスになると言えます。

 また個体発生に関係するホルモンの供給時期と量が不適切であったために生じる生殖系、神経系、免疫系などの発生異常は不可逆的で取り返しがつかないものです。

 さらに情報としてのホルモンは、1兆分の1グラムという超微量で遺伝子のスイッチに機能します。

 因みに、1兆分の1とは、プールを想定した場合、50m×20m×1.2m(深さ)の1200トンの水に目薬1滴(1.2mg)を落とした濃度に相当します。

 このホルモンと同じ働きをするものに、人間が作り出した合成化学物質である「PCB、有機塩素系農薬(DDT、BHCなど)、プラスティック及びプラスティック添加剤(エチレン類、ビスフェノールA、フタル酸エステル類他)ピル(経口避妊薬)などがあります。

 これらが生体に入ることによって、「偽のホルモン」として作用し、精子減少、不妊などの生殖系異常と共に、脳神経系や免疫系の異常によってアトピーやガンの原因の一つになっていると疑われています。

 すでにこの現象は野生動物の生殖異常として広く確認されており、こうした各種合成化学物質がその原因であることはほぼ間違いのないものと考えられています。

 近年、先天性異常で生まれてくる赤ちゃんが多くなっているとも聞いています。

 ただ環境ホルモンとの関係ははっきりしていません。しかし、便利で安価な食材を求めるあまり、私たちの体、私たちの子孫に取り返しのつかない大きなダメージを与えている可能性があることは否定できないのではないでしょうか。

 体に優しい食品・食事を心がけたいものです。


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