日本の経済成長が停滞してはや30年、未だに経済浮揚の声を聞きません。日本人はバカなのでし
ょうか。いや、非常に教育熱心で、自他ともに日本を教育に熱心な国と認めています。
しかしそれほど教育熱心な国の日本の経済がおかしくなっているのに、学問の力でその原因を解明
し、処方箋を見つけられないのでしょうか。その異常さは、経済停滞国は日本だけに見られる特有の現象になっており、いまや、この状況を“日本病”と揶揄する所もでています。
優秀な人材が豊富で、勉強熱心で、そして決められたことを着実にこなしていく日本が何故このように停滞しているのか、その疑問を誰もが抱いています。解になるか分かりませんが、その一例を、現代経済学の盲点を含めてご紹介したいと思います。
1 「ミクロ経済学」と「マクロ経済学」
現代経済学は簡単に言ってしまえば、「ミクロ経済学」と「マクロ経済学」からなりたっています。「ミクロ経済学」は社会をミクロな視点で分析する学問ですが特に家計の消費行動分析を通じて、合理的な消費者の行動原理を学びます。
一方「マクロ経済学」は、日本全体の所得水準や財、サービスの物価水準、経済全体での失業率など、国や地域の経済構造や経済要因の動向など、大きな経済メカニズムを学ぶことになります。
そして、これらの分析を通じて経済政策などへの判断材料として役立てられています。現在の日本の財務省も基本、これらの経済学の分析結果を通じて政策運営をしています。
ところで、「ミクロ経済学」と「マクロ経済学」を説明するのに文章表現で説明すると大変七面倒くさく、冗長になりやすくなりますので、簡単に2つの図で「ミクロ経済学」と「マクロ経済学」の特徴をお伝え致します。
1)ミクロ経済学
図1をご覧になって頂くとお分かりのように、縦軸に価格、横軸にモノの数量を取り、消費者は物を欲し(需要)、生産者は物を生産し与え(供給)ます。その需要量と供給量は価格が一致するところ(均衡価格)で決まります。
このとき消費者と生産者では次の式が成り立っています。
① 消費者
M=pxX+pyY
U=U(X,Y)
ただし、M:所得、px:X財の価格、py:Y財価格、X:X財購入量、Y:Y財購入量
U:効用関数(満足度関数)
つまり、消費者は限られた所得Mの下で、効用(満足度)が最大になるように価格px、pyのX財、Y財を購入します。
これがミクロ経済学の基本です。ここで注意しておいて頂きたいのは、限られた所得Mの下での消費行動という点です。
この論点が後に非常に大きな意味を持つようになります。
2)マクロ経済学
では次にマクロ経済学に移ります。
図2はマクロ経済学のエッセンスを図形化したもので、縦軸に利子率、横軸に国民所得を取っています。
IS(投資貯蓄:Investment and Saving)曲線は、利子率が下がれば投資が増え、国民所得が増えることを意味しています。
LM(貨幣選考と通貨供給:Liquidity Preference and Money Supply)曲線は、利子率が上がれば株投機、競馬などのギャンブル性を帯びた通貨が銀行預金などの安全資産形成に使われ、銀行での投資準備金が増え、企業が設備投資に使うお金が増えます。
均衡利子率は企業の設備投資資金と銀行が保有している預貯金が等しくなった状態を表しており、ここに設備投資の均衡点が得られることになります。
これがマクロ経済学の基本です。ここで注意しておいて頂きたいのは、均衡利子率の下で、設備投資が行われるという点です。
この論点が後に非常に大きな意味を持つようになります。
以上が、ミクロ経済学とマクロ経済学の大まかな説明になりますが、この2つの論点から現在の政府、財務省、日銀の金融政策を説明できます。
2 財政健全化計画と金融緩和政策
1)財政健全化計画
政府は家庭消費理論を用いて、国の財政政策を説明しています。
今、消費理論の家計を国に置き換えて消費理論を見てみます。
M=pxX+pyY
U=U(X,Y)
ただし、M:国の歳入、
pxX+pyY:国の歳出
px:X財の価格、py:Y財価格、X:X財購入量、Y:Y財購入量
U:効用関数(満足度関数)
つまり、国は限られた歳入Mの下で、国の効用(満足度)が最大になるように価格px、pyのX財、Y財を購入します(歳出:教育・文教費、社会保障費、何でも良いです)。
ここで言えることは、国の歳入はMと限られていますから、限られた予算の中で最大効用を得るように、政策決定をすることになります。
もしも歳入が足りなかった場合には、どこかから借りて穴埋めをし、予算計上することになります。
ではこの負債をどうして穴埋めするかと言えば、今の国の方針では、消費税増税、公債発行によって賄われます。
ところで、皆さんは日銀には通貨発行権があるのをご存知ですか。通貨発行権があることにより、Mは変動することになり、最適解は変動することになります。
もしも最適解を(X、Y)と同じと仮定すると、実はMの変動分だけ価格の上昇、インフレが発生することを意味しています。
したがって、M を一定と考えるプライマリーバランス(PB)を堅持する財政健全化政策は、Mを一定に仮定した場合の家計均衡論であり、Mが変動する場合には状況は異なってくることが想定されます。
しかしいずれにしても、Mの変動はインフレを伴うものであり、過度のMの変動はインフレを高めることが予想されるものとなります。
現在のミクロ経済学の“価格理論”には、所得一定の下でのPBを考える均衡理論であり、Mが変動する価格理論はありません。
2)金融緩和論
利子率を低く抑え、資金を多量に市場に供給する金融緩和論は、日銀保有の公債金利を低く抑えるための手段ですが、基本的な目的は金利を低く抑えることにより、企業の設備投資意欲を喚起し、経済を活性化することにあります。
しかし、低金利のために預貯金は少なくなる傾向に陥り、日銀が資金供給を増やすことになりますが、現状、実物経済では企業の設備投資意欲は喚起されず、資金需要は増えていません。
IS―LM理論は利子率の変動による投資、貯蓄の増減を見るものですが、超低金利で投資が伸びないということは、IS―LM理論からは理論上想定できないことになります。
現在の日銀の苦境は、理屈通りに経済が回転していないことに尽きると思われますが、このIS―LM理論には“需要”の側面が抜けており、需要があるから設備投資をするという観点が抜けています。
つまり、需要の無いところに、いくら金利を下げても設備投資は喚起されないことを現状が雄弁に物語っているものと思われます。
現在の金融緩和論の唯一の成果は、支払いの公債金利を低く抑えていることぐらいだと思われますが、あくまでも日銀の範囲は利子率確定、資金供給確定の金融面に限られ、実体経済の需給均衡関係に及ぼす力は無いと思われます。
3 推論
非常に大雑把なマクロ・ミクロ経済の見方ですが、現状の経済状況を要約すれば、プライマリーバランスを標榜する財務省ですが、PBはM一定の消費家計経済の論理で、Mが変動する場合、その最適解は一つとは限られません。ただし、日銀が通貨供給を増やしてMを変動させる場合、インフレが生まれ、多量の通貨供給はインフレを加速させる恐れがあります。
一方日銀の利子率低下は、公債金利負担を軽減させますが、現在では主目的である企業の設備投資に繋がっておらず、金融緩和の成果が見られないものになっています。
企業の設備投資は“需要”がないところでは行われません。需要の拡大は、①所得の増加、②価格の低減が挙げられますが、デフレが蔓延している日本では、更なる価格低減はあり得ない、できないものと推察されます。
とすると「所得の増加」がどうしても必要になります。消費者の所得の増加はMの増加を意味し、日銀の発行通貨が消費者のMを増加させる方向に働くように政策運営をすることになります。このように経済が働くとき、日銀の金融緩和措置が生きてくることになると推察されます。
この流れの中で財政均衡、プライマリ―バランスが必要になってくるのでしょうか。政府の発行公債の額の大きさに怯え、成長の王道を見逃すならば、最後には回避をしようと思っていた以上の災難が私たちを襲うことを覚悟しなければならないと思います。
注:画像はフリー画像を使用させて頂きました。どうもありがとうございます。