2022年3月16日の東北地方で起きた最大震度6強の揺れを観測した地震により、一部の火力発電が運転を停止し、電力需給がひっ迫しました。
2011年3月11日の東北大震災以来原子力発電所の再開、新設はほぼ凍結され、日本の電力供給は現在再生可能エネルギ―(18%)、原子力(6%)、LNG(37%)、石炭(32%)、石油等(7%)で賄われており、原子力発電所が占めるエネルギー供給はわずか6%になっています。
今後電気自動車社会が到来すれば、必ず電気の利用は高くなり、その増大分をどのように賄うかが大きな焦点になります。
2021年に策定された経済産業省の中長期エネルギー政策を示せば、脱炭素社会を目指して2030年のエネルギー供給の内容は、水素・アンモニア(1%)、太陽光(15%)、風力(6%)、水力(10%)、バイオマス(5%)、原子力(20~22%)、LNG(20%)、石炭(19%)、石油等(2%)となっており、再生可能エネルギーは36~38%、原子力が20~22%と、大幅な伸びをもって日本の電力を賄う構想が示されています。
しかし原子力発電所に関してはこれまで、経産省から原子力安全・保安院から分離してできた原子力規制委員会の厳しい安全対策要求 、また自治体の判断など、原子力発電所を取り巻く環境は特に厳しいものがあり、国の政策実効性は難しいものがありました。
一方、欧米では安全性を高め、工期も短縮できる小型モジュール炉の商用化にこぎつけるなど、新型原発の開発に注力しています。
もしもこれからの「電気社会」を想定するなら、原子力の活用は非常に重要な問題になると思いますが、この解は欧米の「小型モジュール炉」が握っている感じがします。
ただしかし、新しい問題も浮上してきました。ロシアがウクライナ侵攻を企て、原子力発電所を攻撃対象として選んだことから、今後日本が何らかの形で紛争、戦争に巻き込まれた場合、日本の核施設が攻撃対象となる危険性があることです。
今後テロ活動、戦争での有事の備えが非常に大切になってきました。
また、もう一方の重要な電力供給の分野を賄う「再生可能エネルギー」ですが、太陽光発電についてはパネルの置き場所が限界に近づいており、また太陽光発電の発電量が天候によって左右されるために、その増減に合わせて別の電源で埋め合わすことが必要になります。したがって、天候が良く、過剰の電気が発生した場合、その過剰電気を蓄えるための大型蓄電池が必要になりますが、現在十分な蓄電池が確保できているとは言えない状況です。
そして、国内の送電網は大手電力会社ごとに分かれており、各地域を結ぶ送電網が十分ではありません。
また風力発電ですが、日本の洋上風力発電は適切な場所がほぼ限定されている上に、欧州の遠浅での洋上風力発電に比べて日本の場合は水深が深く、技術的にも難しいところが多いと言います。
そして最近注目されてきた「水素・アンモニア」ですが、まだ技術的には難しく、コスト的にメインにはなりえません。
以上、産業段階での問題点が幾つか挙げられますが、現在6%のエネルギーシェアを2030年には20~22%と、14~16%も拡大することを構想されている原子力が、実は我が国のエネルギー供給の「キャスティングボード」を握っていることが分かります。
しかし、2011年3月11日以来、原子力発電再開は最近まで非常に難しいことでした。
しかし、その流れが変わろうとしています。
2022年3月16日の東北地方激震による火力発電の停止が、日本の民意を変えつつあります。2022年3月28日の日本経済新聞によれば、原子力発電所の「再稼働を進めるべきだ」:53%、「進めるべきでない」:38%と、2021年9月の、「再稼働を進めるべきだ」:44%、「進めるべきでない」:46%を超えて、「再稼働を進めるべきだ」が半数以上を占め、日本の将来に新しい展望がもたらされようとしています。
もしも再稼働が認められれば、2030年のエネルギー政策は実現できる可能性は高くなります。
しかし、そして次に待つのが日本の財政政策です。
上記産業省の政策を実現しようとする場合、そして「水素・アンモニア」の技術開発等を考慮すると、莫大な研究開発費、また利益を生まないために民間が手を出し難い分野への多くの設備投資が必要になってくると思われます。
問題は、経産省はこれらを民間資本を中心に行うことを前提に、政策立案をすすめているのではないかと思われるところにあります。この大規模な投資を民間主体、民間資金で行うことなど、できる訳がありません。もしも民間資金で行うならば、その実現はまた何年も先のことになると思われます。
財務省の財政健全化計画には、継続的、かつ多大な出費をもたらす財政政策は想定されておらず、また研究開発費、投資資金は網羅的には各分野に分配されていますが、その規模は縮小化の方向に、またその額は少なく、「どこにも予算配分をした、してやったという“実績作り”」のための予算配分ではないかと疑われるようなものになっています(予算は国土開発費、文教文化費、公共事業等はほとんど伸びず、社会福祉・公債費が伸びています。図1)。
欧米に比べて、その額は桁が違うのでは、といえるものになっています。勿論細部にわたって資金配分はなされていますが、その額、そして継続性に問題があるものになっています。
欧州から押し寄せてきた「脱炭素社会の構築」という、歴史的にも非常に大きな変革期にあって、日本政府は、このデフレ社会での財政政策の緊縮、財政健全化計画による研究開発費の削減、設備投資の抑制等の「財政政策」から決別し、当面、日本のエネルギー政策が前に進みやすくする財政政策に転換する必要があるように思われます。
エネルギーは日本産業全体の基礎的資源ですから、ここを強くしない限り、日本の産業が拡大、発展することはできません。
日本最大のアキレスケンであるエネルギー政策に過ちを示せば、日本の産業の成長は滞り、金融・財政面に続き、実物経済での縮小・遅れを日本は覚悟しなければならないと思われます。
エネルギーは、日本経済全体から言えば些細なものです。しかし、エネルギーが日本の社会全体を支えていることを考えれば、 “たかがエネルギー、されどエネルギー”です。