緊縮財政派の誤謬


 日本は世界で笑いものになりかけています。特に韓国では賃金水準では日本を超えたということで、ここ最近日本を見下す論議が盛んになっています。

 そしてデフレ傾向の経済状況が30年(正確にはバブル崩壊後10年経った後の20年)続いていても、経済産業省は従来の政策を取り続け、変えようとしません。確かにデフレ傾向にある経済状況の中で、政策を変更して政策運営をした結果、改善しないでデフレ傾向がそのまま続いているというのであれば政策変更必要なしで多くの人は納得することと思われますが、何も変えないで、基本的に30年間同じ政策を取り続けた結果が現在のデフレの継続であれば、もうこれまでの政策運営がおかしいと思い、変更を模索しても良いように思われます。

 将来の経済史のなかで、日本のこの現状を指して、この今の異常な日本経済を“日本病”と言われるのではないか危惧しています。

 内閣府の「経済再生と財政健全化の進捗状況と今後の展望」(2021年11月)では、『成長実現ケースについて、GDPは、2021年度中にコロナ前の水準を回復した後、中長期的にも、「成長と分配の好循環」に向け、「科学技術立国の実現」、地方を活性化し、世界とつながる「デジタル田園都市国家構想」、「経済安全保障」を3つの柱とした大胆な投資や、働く人への分配機能の強化等を推進することにより、所得の増加が消費に結び付くとともに、政策効果の後押しもあって民間投資が喚起され、潜在成長率が着実に上昇することで、実質2%程度、名目3%程度を上回る成長率が実現する。この結果、名目GDPが概ね 600兆円に達する時期は、感染症の経済への影響を見極める必要があるが、2024年度頃と見込まれる。』

と、経済政策として「科学技術立国の実現」、「デジタル田園都市国家構想」、「経済安全保障」を柱とした投資で、公債発行の増加はない形で「経済再生と財政健全化」を果たすことをいっています。

 現実には政府は「科学研究費」を削減しており、「経済安全保障で投資を拡大」するとはどういうことを言っているのかよく分かりません。「デジタル田園都市国家構想」もしかりです。 その成果を、次のように表しています(ただし、データは9 経済財政諮問会議2018年、2017年)。

図1 国・地方のPB(対GDP比):出所;内閣府
図2 国、地方の公債残高(GDP比):出所;内閣府

 成長実現コースの場合としていますが、データは“こうあったらいいな”というデータを作り、それをもとに計算した結果になりますから、理想的な結果になりますが、2017~2018年のデータを使っており、図1、図2になるようなら、現在の2022年頃の結果は改善していなければならないと思うのですが、現実は実感として逆に動いています。

 そして、もう一つ気がかりなことがあります。国・地方のプライマリー・バランスについてです。ここでは国、地方のPBになっていますが、国と地方自治体とは異なります。

 国には「日銀券の発行権限」があり、日銀券を自由に発行することができますが、地方自治体にはこの日銀券の発行権限がありません。したがって、PBが必要なのは日銀券発行権限の無い、地方、すなわち地方自治体であり、日銀券の発行権限のある国にはそもそもPBは必要ありません。

 内閣府でこのような間違いを犯しながら、この30年、ひたすらPB、財政規律を叫び、必要な産業分野への財政投資を切り詰め、結果、国の開発能力は衰え、国の活力は低下し続けてきました。

 いずれにしても、現在でもPBが地方自治体と同様に、国にも必要ということですべての計算、緊縮財政を堅持してきたのであれば、これは大きなミスとして、経済政策、財政政策を変える必要があります。

 そこで、年3%の名目経済成長をすると仮定します。要するに、GDPが3%増える、すなわちお金が3%増えることですから、今日本のGDPを仮に550兆円とすれば、その3%、すなわち16.5兆円が翌年のGDPで増えれば3%の成長ということになります。そこで16.5兆円を日銀が市場に投入すれば雑な言い方をすれば、3%の経済成長が達成されたということになります。

 では、次の年は同じ16.5兆円を市場に投入して3%の経済成長になるでしょうか。実はなりません。

 550兆円が566.5兆円になっていますから、この3%は16.995兆円の市場投入が必要になります。翌年はさらに、583.495兆円の3%、すなわち17.5兆円の市場投入が必要で、こうした日銀の流通貨幣の投入拡大が3%の経済成長につながります。簡単にいえば、こういうことですから、政府が緊縮財政で市場へのお金の供給をストップすれば、必然的に経済成長は無くなることを意味します。

 ただし、これはあくまでも理解をしやすくするために細かい産業間の取引や経常収支、またお金の乗数効果等の様々な難しいことは除いて、あくまでも理解をしやすくするために用いたものですが、いずれにしても、資金の増加が国に求められ、その最も手近な方法が政府日銀からの資金提供、又は政府からの財政政策だということになると思われます。

 現在政府は国と地方自治体にPBをあてはめ、財政規律を求めていますが、国と自治体の違いを加味した経済政策が必要なことと、経済成長とは、つまるところ、お金の増加であり、国がお金を出し渋りしたら、経済成長は無くなることになるため、少なくとも経済成長が今のようにキンキンに必要な場合には、お金を出す政策が求められているものと思われます。

 ただし、「デジタル田園都市国家構想」、「経済安全保障」といった漠然とした1点集中的なものでなく、人材育成(人材育成に必要な施設、設備を含めて)、科学研究費の充実、設備投資(AI、水素ステーション、宇宙、海洋、インフラ等)成果が出やすく、かつ幅広く相乗効果が出やすい重点分野に積極的にお金を回すことが必要な時期にきているのではないかと思われます。

 私は個人的にはこの政策で最も成功している国は良い悪いは別にして、「中国」だと思っています。

 中国の財政政策は非常に活発で、年率6.5%の経済成長も、複利計算で財政支出を拡大し、急激に経済成長したのではないかと思っています。

 なかなか、一度こうと決めたら変更しないのが日本人らしいのですが、でもこれによって国民が貧しくなり、他国から脅かしを受けることなどだけは避けて頂きたいものです。

 


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です