アベノミクスの財政規律と経済成長


わたしたちの未来がかかっています。 

  日本経済が長期停滞の罠に陥ってから、早30年が経とうとしています。景気停滞が何故悪いのでしょうか、そしてその景気停滞から抜け出せる道はあるのでしょうか。

1.バブル崩壊後の日本経済

1970年代の石油危機を企業の合理化と産業構造の合理化で乗りきった日本はアメリカとの間に軋轢を生み、1985年のプラザ合意をきっかけに円高が進行することになりました。輸出依存の日本経済は大きな打撃を受け、海外に工場を移転させる企業があいつぎ、産業の空洞化による円高不況に陥ることになりました。

しかしその一方で国内企業は省力化投資を積極的におこない、政府の内需拡大政策も相まって景気は次第に回復し、1980年代後半から90年代初期にかけて、日本経済は平成景気とよばれるバブル景気に沸くことになりました。

1985年9月のプラザ合意後の急激な円高は日本経済を震撼させましたが、政府の支援もあり、アメリカの景気回復のために日本の政策金利をアメリカよりも低くしてアメリカへの資金還流を促すために取られた低金利政策は企業の資金調達を容易にし、企業の調達した資金は合理化投資にあてられる一方、株式や土地購入(財テク投資)にもあてられ、そのために、株価や地価が異常に上昇するバブル経済を発生させることになりました。経済のバブル化は資産効果で消費者の購買意欲をかき立て、高級ブランド品等が飛ぶように売れましたが、しかし、総量規制が実施されることにより、1989年12月、一時3万8,957円にもなった株価や地価は下がり始め、バブル経済は崩壊し、バブル経済は終止符を迎えることになりました。

 バブルによって顕在化した問題に、1.需要崩壊下での過剰設備問題、2.金融機関の多額の不良債権問題があり、大規模銀行である”長銀”、”北海道拓殖銀行”の倒産は今でも多くの人の記憶に残っています。

そして1990年代、銀行は新たな貸し出しに慎重になり(貸し渋り)、資金不足から倒産する企業が相次ぐことになりました。

 こうして、日本経済に長い冬の時代が到来することになり、その後30年経った現在でも、デフレは続き、不景気は変わりません(GDPは1995年当時と現在のそれとはほとんど変わっていません。

 1914~1918年に渡る第一次世界大戦は日本に空前の戦時景気をもたらしましたが、戦後各国が生産基盤を回復すると戦時景気は一気に消失することになり、その後は1923年9月の関東大震災、1927年の金融恐慌を経験しながらもインフラ・設備投資等で景気は一進一退を繰り返してきました。しかし、1929年(昭和4年)7月、立憲民政党の濱口内閣は経済面で「金解禁・緊縮財政」を掲げ、日本をアジアの金融ハブ市場にすることを夢にする井上準之助を蔵相に据え緊縮財政を進める一方、金本位制への復帰、物価引き下げ策等の実施、そして市場へのデフレ圧力による産業合理化を進めることで高コスト、高賃金の問題を解決しようとしました。

 日本政府は1929年11月に1930年1月11日をもって金解禁に踏み切る大蔵省令を公布し、それとともに、金解禁前の為替相場を、実勢1ドル=2.151円であったものを、生産性の低い不良企業の淘汰で日本経済の体質改善を図る意味を込めて、1ドル=2.006円と円高の旧平価解禁を実施することにしました。

 折しも、1929年10月24日、アメリカ合衆国のニューヨークウオール街で起こった株の大暴落は、世界大恐慌となって世界を震撼させました。

 金解禁と円高政策による対外輸出の急減は相対的な輸入増加により正貨を海外に大量に流出する一方、1930年3月には鉄鋼、農産物等の商品市場の価格急落、次いで株式市場で株が暴落し、金融界を直撃することになりました。デフレの急伸により、経済規模は急速に収縮して国民の購買力は低下し、未曾有の景気後退に陥っていきました(昭和恐慌:程度は違いますが、現在の日本経済に似ています)。

 1931年12月、立憲政友会の犬養毅内閣の下、高橋是清蔵相は直ちに金輸出を再禁止し、民政党政権が行ってきたデフレ政策を180度転換し、満州事変によって戦時需要が発生する一方、積極財政によって需要を創出し、それに伴う民間設備投資の拡大策に舵を切り直しました。

 その一方で金輸出再禁止措置によって円は急落することになり、円安に助けられた企業は輸出を伸ばし、内需拡大、輸出の拡大とともに景気も回復し、1933年には他の主要国に先駆けて恐慌前の経済水準に回復することになりました。

 2009年8月から民主党の鳩山由紀夫氏、菅直人氏、野田佳彦氏らの各内閣総理大臣によって超円高、超緊縮財政が取り続けられたのですが、2012年12月から2014年12月まで、自民党の安倍晋三氏が第2次安倍内閣を発足させました。

安倍内閣は「日本再興戦略」として、「アベノミクス3本の矢」を唱え、第1の矢として「大胆な金融政策」、第2の矢として「機動的な財政政策」、第3の矢として「民間投資を喚起する成長戦略」を掲げ、大規模な金融緩和措置が採られた結果行き過ぎた円高が是正され、急激に落ち込んだ株価は8,000円代から20,000円代にまで回復し、経済は復興の動きを示し始めました。

その経済復興の矢先、2014年4月、安倍政権は消費税率を5%から8%へと引き上げました。それにより、消費は急減し、深刻な景気悪化に陥り、同年4~6月期の国内総生産(GDP)は前期比年率7.5%減と記録的な落ち込みを示すことになります。

結果、安倍内閣は9月に解散し、新たに2014年12月から2017年11月まで第3次安倍内閣を、2017年11月から2020年9月まで第4次安倍内閣を掲げることになります。

 そしてこの間、2019年10月、消費税率は8%から10%へと上げられることになりました。何故景気悪化を促す消費増税を行ったのでしょうか。

 ここで、経済政策を左右するものとして、①金融緩和・引き締め、②積極財政・緊縮財政、③増税・減税の大きな変数がありますが、デフレ・インフレ要因になるものについて整理すれば、

  • デフレ 要因:金融引締、緊縮財政、増税
  • インフレ要因:金融緩和、積極財政、減税

に整理できます。

 安倍政権は発足当初から消費税増税を税制の柱としてきました。それは、財務省が長年取り続けてきた財政再建があり、ために公約に「経済再生と財政健全化の両立を実現すること」を掲げ、「プライマリーバランスの健全化」が財政健全化であり、その重要な解決策に消費増税を考え、消費増税に動くことになりました。

 安倍政権発足当初、消費税5%のとき、アベノミクスによる金融緩和と積極財政で景気が回復しかかったとき、消費増税でデフレに戻し、さらに10%に消費増税を実施することにより、デフレ状況を確定することになりました。

 消費者の手持ちのお金は従来通りですので、消費増税分は購買力が削減され、結果として消費者の需要は落ち、商品の売れ行きは減少します。

 商品の売れ行きが全国レベルに拡大すれば商品が売れ残り、企業は生産を減少せざるをえず、賃金カット、労働者の解雇へと繋がり、深刻なデフレ経済へと進むことになります。

 現在のようにデフレで消費者が苦しんでいるときの消費増税は禁じ手で、消費増税はデフレを深刻化させることになります。 

 安倍政権は、このデフレ時での禁じ手を2度も使うことにより、第1の矢、第2の矢でせっかく浮上しかけた経済を再びデフレ経済に押し戻すことになりました。

 これはひとえに「日本が破産しないように財政均衡論最優先、プライマリーバランスを最優先しなければならない」という、恐怖心からきているもので、現実には起こりえない“もの”に怯えて、政府一丸となって、この30年、財政均衡に向かって行動してきた結果になります。

 しかし安倍政権下で雇用は改善し、株価は回復し、経済規模は大きく改善しています。

 デフレ、インフレ問題は消費者価格の「価格」問題であり、雇用等の実物経済は大きく改善している点を見落としてはならないと思います。

 もしも安倍政権で消費税増税を行うにしても、もう少し時期をずらして、景気が本当に回復軌道に乗ってから実施されたら、デフレ脱却に繋がったかもしれません。

 ただしかし、現在でもこの考えが主流であり、財政に直接関係しない金融では金融緩和を続け、財政に直接関係する積極財政は封印状態に置かれ、デフレ下で更に税収が落ちれば、消費税を15%、20%へと増額を主張する識者が多く、今後もこのままでは日本を世界の貧国へと貶める業が続くことになりそうです。

 さて、そこで皆さんは、では積極財政で公債を多く発行して日本は債務超過になり、デフォルトを起こして世界経済から落後してしまうのではないか、と心配されるのではありませんか。

 大丈夫です。基本的に、いくら公債を発行しようと、対外債務が少なければ、日本が債務不履行で倒産することはありません。

  この件については、また今度の機会にご報告したいと思います。

 いずれにしても、このデフレ、インフレ時に採用すべき政策の取り違えをこの30年間繰り返してきて、これほど経済が低迷してきたのに、まだ繰り返そうとする気持ちは本当にどうかしていると思うのですが、日本の名だたる経済学者、経済評論家はどのようにこの状況をお考えでしょうか。

 私たちは、今立ち上がらなくては、本当に世界から取り残されてしまうことになると思います。

 今の日本には、高橋是清蔵相のような、胆力・気力、勇気、そして経済について知識だけではない、経済の本質をとらえた方が望まれます。

 皆さんの奮起と、活躍をお祈りしています。


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