海藻、海の野菜が食の革新を起こす


―日本は海の野菜の宝の山―

1 はじめに

 海に囲まれた日本は、世界有数の海洋資源大国です。海流は黒潮(日本海流:暖流)と親潮(千島海流:寒流)、対馬暖流とリマン寒流が太平洋、日本海で合流し、「潮目」を作っています。この「潮目」では海流に乗って寒暖両方の魚が集まりやすく、魚のえさとなるプランクトンも豊富な場所で、特に親潮と黒潮がぶつかる太平洋海域の潮目は魚がたくさん集まる場所として有名です。

 日本海でも、対馬海流(暖流)とリマン海流(寒流)がぶつかる場所があります。そして、日本海は比較的水深が浅い海で、水深が約200メートルまでの傾斜がなだらかな大陸棚を形成しており、好漁場として知られています。

 日本の周囲は好漁場に囲まれており、日本が昔から漁業大国として知られていたのは、よく理解できます。

2 海藻について

 海の幸は“魚”だけではありません。南北に長い海岸線を有する日本は「海藻の種類」が豊富で、「海藻の種類1400種類、そのうち200種類が食用に供せられています。こんなに多い国は他にないでしょう。」と、東京海洋大学の藤田大介准教授は言っておられます。

 日本での食用としての海藻の歴史は古く、既に縄文・弥生時代の遺跡から、海藻が見つかっています。

 文献としては、701年制定の日本最古の法律「大宝律令」に、租税として、ワカメやアマノリ等の8種類の海藻類が記されています。

 江戸時代になると、産業の発達とともに海藻類の生産量も増えていき、また海藻類の薬用効果も言われるようになり、海藻類のニーズは様々な面で増えていった様子が窺えます。

 因みに海藻の食用としての用途以外の薬用としては、江戸時代の「本朝食鑑」に、「“ひじき”は血を良くする。“あらめ”は婦人の諸々の病い・便秘・できもの・腫瘍を治す。“わかめ”は二日酔いに効く、“ところてん”は熱を冷ます、痰を止める、酒の毒解消にいい。・・・」と書かれています。

 海藻は食用、薬用として、日本での消費が増えていった様子が窺われます。

 なお、海藻は、褐藻類・紅藻類・緑藻類という3つの種類に分けることができ、褐藻類には各種のコンブ類、ひじき、もずく、紅藻類は浅草海苔や天草、緑藻類には青海苔やアオサノリ等が挙げられます。

 ここで、海藻の栄養価を見てみたいと思います。

 表1,2、3に、海藻(ワカメ、ヒジキ)、豆(小豆、大豆)、米(玄米、発芽玄米、白米)、野菜(ほうれん草、ブロッコリー)など、海藻、豆、米、野菜の代表的なものを掲げています。

 海藻で目につく栄養素としては、ヨウ素、カルシウム、マグネシウムのミネラル類、とりわけヨウ素の含有量は豊富で、海に囲まれた日本ではお味噌汁の具材等、海藻を食する習慣があり、ヨウ素の摂取に不足することはありません。

 また、海藻は豆や米等の穀物よりも野菜に栄養成分は似ており、「海の野菜」と言われるのが分かります。

 ヨウ素は、成長や代謝を促す甲状腺ホルモンの成分として欠かせない必須元素で、甲状腺ホルモンは、全身の基礎代謝を促進し、酸素の消費量を増加させる働きを持ちます。

 ヨウ素の摂り過ぎは甲状腺ホルモンの合成を阻害し、甲状腺腫となります。しかし逆に、ヨウ素不足でも甲状腺腫の原因となり、甲状腺機能が低下し、貧血、低血圧、遅脈などの代謝異常やヒステリー症状が現れ肥満体になり、疲れやすくなり、子供の場合には成長不良や発育が止まると言われています。

 日本ではヨウ素不足はほぼ考えられず、逆に過剰摂取に注意する必要があるようです。

3 フコイダン、アルギン酸(アルギン酸ナトリウム)、グルタミン酸

 海藻類には、 ①血液凝固阻止化作用、②コレステロール低減化作用、③血圧上昇の抑制作用、④血糖値上昇の抑制作用、⑤花粉症・アトピーなどのアレルギー緩和作用、⑥抗酸化作用、⑦肌の保湿作用、⑧腸内環境改善作用等があり、海藻類にはまだまだ多くの健康機能が隠されているようです。

 海藻類には、ビタミン、ミネラル、フィトケミカルと言った陸上植物が有する栄養素とは含有量が異なる貴重な栄養素があるようです。それを見てみたいと思います。

 1)フコイダン

 フコイダンとはコンブなどのねばねば成分のことですが、1913年、スウェーデンのキリン教授が海藻から「フコイダン」を発見して以来、多くの“フコイダン”機能が発見されてきました。

 1950年代にはフコイダンの「抗凝血作用」、1970年代には「抗がん作用」、1980年代には「抗ウイルス性」についての研究成果が世に出されています。

 これらの成果を受けて日本でも1996年、「(株)海産物のきむらや」と「島根大学」は共同で、“味付もずく”は、大腸菌O-157がベロ毒素(出血性の下痢、急性脳症等を引き起こす病原因子)を出さずに死滅することを発見し、後に“味付もずく”からの抽出物が“フコイダン”であることを確認しています。

 2000年代になると“フコイダン”の機能性についての知見は広がり、(株)ヤクルト中央研究所による“オキナワモズクフコイダン”による「不定愁訴改善効果※」」、「抗炎症作用」、またタカラバイオ(株)による「皮膚老化の予防・治療作用」についての研究成果が世に出ることになりました。

※)不定愁訴(ふていしゅうそ)とは、漠然とした体調不良などを訴えますが、精査しても原因が分からない状態のことを言います。

 また、「(株)海産物のきむらや」と「鳥取大学」は、血中アセトアルデヒド濃度を低減させる効果(二日酔いの予防・症状の軽減効果)、そして酸性尿をアルカリ化する作用(痛風予防効果)があることや軟骨再生を促進する効果、がん細胞の増殖を抑制する効果等がある事を発見し、確認しています。

 “フコイダン”には更に多くの機能が隠されているようです。今後も多くの機能発見がなされるかもしれません。こうした様々な機能がまだ科学が発達していなかった江戸時代以前には経験則、体感として、

 『“ひじき”は血を良くする。“あらめ”は婦人の諸々の病い・便秘・できもの・腫瘍を治す。“わかめ”は二日酔いに効く、“ところてん”は熱を冷ます、痰を止める、酒の毒解消にいい。・・・』等として書かれたものと思われます。

 また、海藻に含まれる食物繊維は「水溶性食物繊維」で、腸内のコレステロールを吸収して排出する効果があり、さらにこの「水溶性食物繊維」は免疫力を活性化させるフコイダンとアルギン酸でもあり、健康改善に大いに効果があるものと思われます。

2)アルギン酸(アルギン酸ナトリウム)

 アルギン酸は、コンブワカメヒジキモズクなどの褐藻類に含まれる成分の中で最も多くを占めるもので、乾燥藻体の約10~50%を占めているといいます。
 一般にアルギン酸と呼ばれるものは、正式には「アルギン酸ナトリウム」であり、フコイダンと同じく多糖類の仲間で、ネバネバしているという点でもフコイダンと似ています。

 水に溶けるだけで粘りを見せるアルギン酸ナトリウムは、食品添加物や食物繊維、サプリメント、医薬品、工業製品の原料として利用され、身近では食品にとろみを付けたり、ゼリー状にしたりするときに使われています。
 また、アルギン酸ナトリウムは、フコイダンと同じく食物繊維でもあり、人間の消化酵素では消化できないものを言います。

 アルギン酸は、1883年スコットランドの科学者E.C.C.Stanfordにより初めて単離され、日本では、1941年に(株)キミカが「アルギン酸」の工業的製造に日本で初めて成功しています

【アルギン酸の性質】アルギン酸の効果

①高血圧を予防する効果
 アルギン酸はコンブやワカメ等の海藻に含まれていますが、海藻のぬめりは水溶性アルギン酸カリウムによるもので、水溶性のアルギン酸カリウムは胃の中に入ると、アルギン酸とカリウムに分解され、小腸に達したアルギン酸は体内のナトリウムと結合し食物繊維としてのアルギン酸ナトリウムとなり体外に排出されます。

 一方、切り離されたカリウムはナトリウムが腎臓で再吸収されるのを抑制し、尿への排泄を促す作用があることから、血圧を下げる効果があるとして高血圧予防に有効とされています。

つまり、高血圧の原因となるナトリウムの排出作用と、血圧を下げる働きのあるカリウムを摂取できるという一石二鳥の効果があると言われています。

 こうして、高血圧の原因のひとつとしての体内のナトリウム含量の増加がある場合には、ナトリウムを排出する働きのあるアルギン酸は血圧を下げる効果があることになります。

   ②コレステロール値を下げる効果
 コレステロールは、細胞膜など体を構成する脂質の一種で、血流で体中に運ばれますが、そのままでは血液中に溶け込めないため、になじむ親水性のリポタンパク質として血液中に存在し、コレステロールを含む割合によって分類されています。

 代表的なものにコレステロールを肝臓から末梢組織へ運ぶ「LDLコレステロール」、コレステロールを肝臓へ運ぶ「HDLコレステロール」があります。

 またコレステロールは肝臓や神経組織、脳などに多く存在していて細胞膜をつくる材料になるだけでなく、ビタミンAビタミンEなどの脂溶性ビタミンの吸収を促進し、脂肪の消化に必要な”胆汁酸”の材料、性ホルモンや副腎皮質ホルモンの材料、ビタミンのDの原材料にもなっています。

 LDLコレステロールは、細胞にコレステロールを供給しますが、増えすぎると血管壁に入り込んで酸化され、この酸化されたLDLコレステロールが溜まると動脈硬化などの原因になると言われています。

 動脈硬化とは、動脈にコレステロールや脂質が溜まって弾力性や柔軟性がなくなった状態のことで、動脈硬化が進むと血液がうまく流れなくなり心筋梗塞や脳梗塞などの死に至るような病気につながる危険性があります。

 逆にHDLコレステロールは、コレステロールを回収する働きが強く血管の掃除をすることになりますので、HDLコレステロールを増やすことが健康の鍵になります。

 水溶性のアルギン酸カリウムは、その”ぬめり”により余分なコレステロールを包みこんで体外に排出する作用を持ちます。また、不溶性のアルギン酸カルシウムは胆汁酸を吸収して排出する作用を持つと言われます。

 胆汁酸はコレステロールを原料としてつくられるため、胆汁酸を排出する作用を持つアルギン酸カリウムはコレステロール値を下げる効果があり、アルギン酸は動脈硬化を予防する効果があると言えます。

③ダイエット効果
 消化吸収できない食物繊維であるアルギン酸を含んだ食品やドリンクを摂取することで、長時間にわたり満腹感を感じることができます。また、体内にほとんど吸収されることがないため、摂取カロリーを下げる効果もあり、アルギン酸はダイエットに効果的な成分であると言えます。

④胆石を予防する効果
 胆石とは、胆のうという袋に石のようなものができる病気で、背中に痛みが現れます。
 コレステロールは通常は水に溶けないため、胆汁の中ではリン脂質の膜やミセルという水にも油にもなじむ膜のようなもので覆われて存在しています。

 しかし胆汁中のコレステロールが増えすぎてしまうことにより、ミセルで覆うこができなくなり、増えすぎたコレステロールが結晶化することにより”胆石”になります。
 アルギン酸にはコレステロール値を下げる働きがあるために、胆石を予防する効果があります。

 こうしてみると、アルギン酸にも多くの薬効があることが分かります。

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 3)グルタミン酸

 グルタミン酸は1866年、ドイツの化学者リットハウゼンによって、発見されました。

 1908年、東京帝国大学(現東京大学)の池田菊苗は、グルタミン酸がうま味物質であることを突きとめ、従来の「甘味、塩味、酸味、苦味」に加えて、「うま味」が存在することを発表しました。

【グルタミン酸】

  (1)グルタミン酸について

 グルタミン酸とは体内で合成することができる非必須アミノ酸の一種で、グルタミン酸には脳の機能を活性化する効果やアンモニアの解毒・利尿効果、血圧降下、肌の保湿力アップ、また筋肉や免疫力を強化するたんぱく質を作る働きを持つために、私たちの健康、生命維持に大切な役割を果たしています。また脳の興奮を鎮めるGABA(ギャバ)を生成する働きもあります。
 一方、グルタミン酸の過剰摂取は、睡眠障害や神経症、幻覚などを生じる恐れがあるといわれ、また、化学調味料のグルタミン酸ナトリウムを過剰に摂取すると、頭痛やのぼせ、手足のしびれが起きます。

 グルタミン酸の不足は、脳の働きの低下や排尿阻害を引き起こしますが、グルタミン酸は身近な食品に多く含まれているため、日本人の食生活では不足することは基本的にないといわれています。

  (2)グルタミン酸の効果

 グルタミン酸は、天然では昆布などの海藻類をはじめ、白菜、トマト、イワシ、緑茶に多く含まれていますが、サトウキビの抽出液やデンプンを発酵させることでも得ることができます。

 グルタミン酸は、調味料としてだけでなく、健康を高める様々な働きをしています。

①アンモニアの解毒作用・利尿効果
 グルタミン酸は、脳の機能を阻害するアンモニアと結合しグルタミンを合成することでアンモニアを無毒化し、これらを含む尿の排出を促進する効果があります。
 アンモニアはたんぱく質の分解によって発生し、血液に溶けて肝臓で無毒化された後、尿として体外へ排出されます。アンモニアの体内蓄積は神経伝達物質の働きを阻害し、脳症などを引き起こすと言われます。

 また、アンモニアはエネルギーをつくり出すミトコンドリアの働きを阻害し、そのためにアンモニアが過剰に増えるとミトコンドリアでエネルギーが作り出せなくなり、疲労の蓄積、組織の老化、免疫力の低下等を引き起こすことに繋がります。
 グルタミン酸はアンモニアと結合しグルタミンに変換することで、アンモニアを無毒化し、尿の排出を促す効果があります。

②脳の活性化効果

 食物等として体内に取り込まれたグルタミン酸は、主として興奮系の神経伝達物質として脳機能を活性化させ、そのために、認知症の予防効果、記憶力や学習能力等の改善に効果があるともいわれています。
 ただし、過剰摂取は逆に脳細胞への障害の可能性がありますので注意が必要です。

③脂肪蓄積の抑制効果
 実験上の話になりますが、高脂肪の”餌”で飼育された”マウス”が、グルタミン酸の摂取で皮下・内臓の脂肪蓄積が抑制されるということが明らかになり、これらの結果からグルタミン酸は脂肪蓄積を抑制する効果があることが期待されています。

④美肌効果
 人間の皮膚は、厚さ約2㎜で表面から表皮層、真皮層、脂肪層に分かれており、さらに表皮層の表面は角質層と呼ばれています。角質層はわずか0.01mm程度の薄い層ですが、ウイルスや細菌などから体を守り、肌へのダメージを抑える役目とともに、肌の水分が拡散しないように水分保持の役目を担っています。

 この角質層の細胞はケラチン※)繊維※)と線維間物質から構成されており、線維間物質に肌の潤いを保持する天然保湿成分(NMF)が存在します。グルタミン酸をはじめとするアミノ酸は、天然保湿成分(NMF)の約40%を占めていると言います。肌荒れを起こしやすい人は角質層に含まれるアミノ酸が不足しているという研究結果があります。

※)ケラチンとは、細胞骨格を構成するタンパク質の一つで、細胞骨格には太い方から順に、微小管中間径フィラメントアクチンフィラメントと言いますが、このうち、中間径フィラメントのタンパク質をケラチンと言います。

※)ケラチン繊維とは、肌の角質層に存在するハリと弾力を保つ物質を言います。]

※)NMF:湿因子で、角質に存在し,皮膚の保湿機能の”水溶性物質”の総称をいいます。

 その角質層の細胞には核や小器官は存在せず、核がないということは細胞にとっては死を意味します。角質層はケラチノサイト(表皮を構成している細胞)の死骸の集まりといえます。
 死骸と死骸の間隙(角層細胞間)には顆粒層で賛成された、 皮膚のバリア機能として重要な役割を果たす脂質でみたされ、 細胞同士の結合のみならず水分保持に非常に重要な役割を果たしています。

 肌の最表層にある角質層は、乾燥などの外界刺激から生体を保護するとともに、肌の潤いを一定に保つ働きを持っており、角質層内で潤いを保つ役割を担っているのが、角質層細胞内のケラチン※)繊維と、角質層細胞間にあるセラミドなどの脂質類です。
※):人の表皮細胞の枠組み構成となる繊維状の構造をケラチンと呼んでおり、ケラチンはタンパク質で、多くの溶媒には不溶で頑丈です。皮膚はケラチンと細胞で構成された後、一定期間が経つと皮膚や爪を守った後に、細胞が死亡して皮膚から剥がれていって、肌のターンオーバーが発生します。

 ケラチン繊維は、角質層細胞内のタンパク質の約8割を占める細胞の骨格形成成分で、末端の非晶部が水を保持します。一方、セラミドなどの細胞間脂質は、層状のラメラ構造を形成し、層間に-40℃でも凍らない状態で水を保持します。

 表皮は大部分がケラチノサイトと、それが変化した細胞で占められています。

 基底細胞は分裂してケラチノサイトを作り、ケラチノサイトは有棘細胞、顆粒細胞、角質細胞へと形を変えながら徐々に上層部へと移行し、そして最後は核をなくして垢(細胞の死骸)となり、やがて剥がれ落ちてなくなります。

 この細胞の生産と排出の流れが「ターンオーバー」と言われています。

 この角質層の細胞はケラチン繊維と線維間物質から構成されており、線維間物質に肌の潤いを保持する天然保湿成分(NMF)が存在しており、グルタミン酸をはじめとするアミノ酸が、天然保湿成分(NMF)の約40%を占めていると言われ、肌荒れを起こしやすい人は角質層に含まれるグルタミン酸等アミノ酸が不足していると言われます。

⑤血圧を下げる効果

 日本、中国、アメリカ、イギリスの4ヵ国4680人を対象にした食事の研究データを分析した結果、摂取タンパク質の総摂取量に占めるグルタミン酸の割合が4.72%増加すると、最大血圧が1.5~3.0mm、最小血圧1.0~1.6mm低下したことが分かったそうです。この血圧低下のデータによれば、脳卒中の死亡率が6%、心疾患による死亡率が4%減少すると言われています。

 海藻類には、ビタミン、ミネラル、食物繊維、フィトケミカルと言った陸上植物が有する栄養素とは含有量が異なる貴重な栄養素があります。

 フコイダン、アルギン酸(アルギン酸ナトリウム)、グルタミン酸は、そうした海藻が有する特徴的な栄養素と言えるかもしれません。

 そしてこれらの栄養素が果たす機能は多く、①血液凝固阻止化作用、②コレステロール低減化作用、③血圧上昇の抑制作用、④血糖値上昇の抑制作用、⑤抗酸化作用、⑥肌の保湿作用、⑦腸内環境改善作用等があり、更に海藻類にはまだまだ多くの医薬・健康機能が隠されているようです。

 健康機能満載の“海藻”は、日本に新しい食の革新を呼び覚まそうとしています。

4 海藻による“食の革新”

 『東京・中目黒の高架下に2021年、看板もない隠れ家のようなキッチンが登場しました。ここには日本全国からさまざまな海藻が集まり、中には食用としては一般的でないものまでも、海藻を美味しく食べるための新しい方法を有名レストラン出身のシェフ、石坂秀威さんが日々模索しています。

 石坂さんの進める食べ方の最新方法は早くも食の世界で知られるようになり、有名店でも海藻メニューが増えてきました。銀座のレストラン「FARO」で令2年夏、前菜として出されていたのは、アオノリを散らした白身魚のマリネ※)でした。魚の下には海藻の「柚子ヒジキ」も梅ソースと和えて添えてありました。「海藻は陸上の食べ物にはない香りと食感があり、料理人にとっては魅力的」と調理長の前田祐二さんは言います。前田さんは海藻を通じて各地の海藻食の豊かさを知り、さらには海藻食の可能性を感じるようになったと言います。

※)肉類・魚介類・野菜などの材料を、ドレッシングや酢やレモン汁、オリーブオイルなどからなる漬け汁に浸した料理のこと。

 海藻は今や海外で大きな注目を集め、和食への関心の高まり、そして昆布だしを通じた新たな素材としての海藻に注目が集まるようになりました。

 特に「世界一のレストラン」と言われるデンマークの「NOMA」は、料理からデザート、店内装飾にまで海藻を積極的に使うことで知られています。

 西洋では海藻を食べる伝統がない分、使い方は自由に広がり、例えば“海藻入りアイスクリーム”等はNOMAのみならず、フードトラック※)も出すくらいの人気メニューになっており、ここ数年はサステナビリティーの観点からも関心が高まっています。

※)各営業場所でさまざまなお客様と出会えたり、その場で出来立ての料理を提供できたりと、店舗よりミニマムな条件で始められるキッチンカーでの移動販売。

 肉食を減らそうという中、海藻はうま味や風味を加え、野菜を美味しくできるからで、あわせて海藻の養殖も増えてきたといいます。

 今新しい食材としての海藻の需要は伸び、食糧難の解消等、新たな活用法の模索も始まっています。海藻養殖は最先端の産業として、多くの人は皆明るい未来を夢見ています。』

・・・一部編集、省略:日本経済新聞(2022年9月11日)

 海藻は、海藻自体の食べ方もありますが、野菜等との和え物としての利用の仕方もあり、食生活を豊かなものにすると共に、栄養価の高い食物の創造へと繋がる“食材”であり、今、新しい海藻の利用法が世界的に広がろうとしており、海藻を通じた「食の革新」が起きようとしています。

 海藻の有する多機能性を最大限に活用し、新しい「わが家の食文化」を作ってみませんか。

 陸の野菜、海の野菜を和えることで、新たな「食」が食卓に見られることを期待したいと思います。

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