30年デフレの原因と日本の未来③


―経済の諸課題―

【経済の諸課題】

1)通貨発行権

 これは主流派経済学者というよりも政界といった方がよいかもしれませんが、中央銀行には「通貨発行権」があり、例えば日銀は基本的に無尽蔵に通貨を発行できます。勿論、インフレが酷くならない範囲での話ですが。

 通貨発行権とは法律によって日本銀行に合憲的に独占させている通貨発行の権限です。

  したがって、政府が国と地方公共団体は負債によって破綻するとよく宣伝していますが、政府に無限の通貨発行権がある限り、国が破綻することはありません。

 勿論、通貨発行権のない地方公共団体は破産することがあります。例えば北海道の夕張市が有名ですが、通貨発行権のない自治体は破綻する場合があります。

 しかし、現在、行政機関は何処でも国と地方公共団体は国債の発行残高が1000兆円を超えたから、財政破綻すると騒ぎ、国民に不安を煽り立てています。

 また、これに同調する主流派経済学者も多く、日本の経済政策に大きな禍根を残しています。

 しかし、これは違います。

 図1は、各国の対GDP比政府債務を表したものですが、日本は財政危機にあったギリシャよりも悪い意味でダントツに一位です。

 しかし、債務が日本より低いギリシャやイタリアが何故財政危機にあるといわれてきたのでしょうか。

 その理由は、ギリシャとイタリアはユーロ加盟国で、自国通貨が発行できないためです。ユーロ発行権を有するのは欧州中央銀行だけであって、各国政府はユーロを発行することはできません。

 したがって、ユーロ建ての債務を返済するためには、財政黒字によってユーロを確保するほかなく、それができないために財政危機に陥っています。

 つまり、自国通貨発行権をもつ日本とは、まったく状況が異なっています。

 2001年に財政破綻したアルゼンチンには「アルゼンチン・ペソ」という自国通貨がありましたが、アルゼンチンの場合には、外貨建て国債がデフォルトしたために、外貨建て国債の外貨保有額が足りず、デフォルトしました。

 しかし、考えて見てください。日本は、ほぼすべての国債が自国通貨建てですので、自国通貨を発行して返済にあてれば良いことになり、デフォルトすることはあり得ません。

 問題は、ハイパーインフレーションが起こるとか、なんだかんだと文句を言い、政府の通貨発行を制限させようとする勢力が政官学に存在することです。

 何も「通貨発行をハイパーインフレーションが起こるまでしなさい」と言っている訳ではなく、インフレ率が4~5%程度になれば、通貨発行を抑制すれば良いだけの話で、何も無制限に発行する必要はありません。

2)国債のマネタイゼーション(財政ファイナンス)

 国債のマネタイゼーション(国債の貨幣化)は、「財政ファイナンス」とも呼ばれ、国(政府)の発行した国債等を中央銀行が直接引き受けることをいいます。これは、中央銀行が政府に対して、マネー(資金)をファイナンス(供給)することを意味し、政府の厳しい財政状況において、財政赤字の拡大や穴埋めの支援策として、中央銀行が直接協力することを意味しています。

 一般に、国債のマネタイゼーションを行うと、その国の政府の財政節度を失わせ、中央銀行による通貨の増発に歯止めがからなくなって、悪性のインフレ(ハイパーインフレ等)を引き起こす恐れがあると言われています。
 万一悪性のインフレを引き起こすと、その国の通貨や経済運営そのものに対して国内外からの信頼が損なわれるため、先進各国では、財政ファイナンスを制度的に禁止しています。

 日本では、「国債の市中消化の原則」と呼ばれるものがあり、国債のマネタイゼーションと見なされる恐れのある日本銀行における国債引き受けは、財政法第5条によって原則として禁止されています。

 これは、「国債の市中消化の原則」と言われています。
 ただし、金融調節の結果として保有している国債のうち、償還期限が到来したものについては、「財政法第5条(ただし書き)」の規定に基づき、国会の議決を経た金額の範囲内に限って、国による借り換えに応じています。

●財政法第5条:
「すべて、公債の発行については、日本銀行にこれを引き受けさせ、又、借入金の借入については、日本銀行からこれを借り入れてはならない。但し、特別の事由がある場合において、国会の議決を経た金額の範囲内では、この限りでない。」とあるように、「国による借り換え」、そして「国債の買取」も国会の議決を経れば、可能であることが窺われます。

 日本銀行の利益の大部分は、銀行券(日本銀行にとっては無利子の負債)の発行と引き換えに保有する有利子の資産(国債、貸出金等)から発生する利息収入で、こうした利益は、通貨発行益と呼ばれています。

 そしてこれら通貨発行益は日銀が利益として計上しますが、その後どういうことになるかといえば、当期利益は

当期利益(当期剰余金):通貨発行益など

利益処分
  法定準備金

  配当金

  国庫納付金

に利益処分され、利益から法定準備金、配当金をひいた残りの額が、「国庫納付金」として、政府に収められることになります。

 日銀が国債を引き受ければ、利払いが当期利益として日銀に計上され、その利益は国庫納付金として政府に収められることになります。

 ここから何が見えてくるでしょうか。政府が国債を発行し、日銀が国債を引き受ければ引き受けるほど国庫収入は増え、財政措置がとりやすくなることが見えてきます。

 したがって、極端なことを言えば、政府が国債を発行して財政を刺激する一方、国債を日銀が引き受けることにすれば、日銀への利払いが政府に舞い込むことになり、政府が手を出しにくい分野への財政措置をし易くなることが類推できます。

 国債の発行が景気を刺激することは明らかですが、では日銀は国債を買い占めて良いのでしょうか。

 国債の大量発行は何時しか必ず景気を刺激し、インフレを起こします。

 ここで、日銀のオペレーションの一つを見ておきたいと思います。

日銀のオペは、「買いオペ」「売りオペ」の2つの種類に分かれています。

「買いオペ」とは、日銀が国債を買い取ることで、市場に通貨を供給する政策で、「売りオペ」とは、反対に日銀が国債を売って、市場から通貨を吸収する政策を指します。

 国債買入オペは、日本銀行が行うオペレーション(公開市場操作)の一つで、長期国債(利付国債)を買い入れることによって金融市場に資金を供給します。2016年(平成28年)9月に「長短金利操作付き量的・質的金融緩和」を導入してからは、金融市場調節方針で示された 長期金利の 操作目標を実現するように国債買入オペを運営しています。長期国債については、価格が上昇すると利回りは低下するという関係がありますので、例えば国債買入オペの金額を増額して市場の需給環境がタイト化すれば、通常、国債の価格は上昇し、長期金利は低下すると考えられます。

 なお、この長期国債の買入れは、金融政策の目的で行うもので、財政ファイナンスではありません。

参照: www.boj.or.jp/announcements/education/oshiete/seisaku/b35.htm/

 したがって、国債の大量発行で景気が過熱した場合、日銀は「売りオペ」を実施して市中から資金を吸収して過熱した景気を冷ますことになります。

 国債を無制限に買い進めることはなく、基本、オペレーション(公開市場操作)で景気刺激を調整することが重要な日銀の業務になります。

 しかし、いずれにしても、日銀が国債を引き受ければ、利払いは国庫収入になりますので、市中への利払いが多くなって財政運営が難しくなることはありません。

 図1は、多くの人が目にする公債残高と金利、利払い費を示した図ですが、もしも日銀が公債残高の50%を所有しているなら、利払い費の50%は日銀収益に数えられるために、国庫収入になります。

 利払いで財政破綻するとは、どういうことをいうのでしょうか。

 そしてもう一点、財政破綻するような国の金利ですが、通常はそのような国の金利は上昇するはずです。しかし、公債残高が増えているにもかかわらず金利は低下しています。この状況は、日本が財政破綻することはないと市場が判断している結果であり、デフレが続く日本ではもっと積極財政をすすめてもよいとするシグナルと受け止めることができるのではないでしょうか。

 金利の低下は設備投資等を喚起するシグナルですが、設備投資が日本では進んでいない証でもあります。

3)日銀保有の満期国債の償還

 以下は、非常に重要な内容を含んでいるので、参考リンクに若干の変更を加えて再掲させて頂きました。

~桂木健次先生の研究ノート~、2021-03-17 02:09:10

<参考リンク>https://ameblo.jp/monzen-kozo100/entry-12662820687.html

『国債はどのように償還されるのでしょうか。
国債は、日銀法に基づいて、中央銀行である日本銀行が政府を代行して業務として取り扱っています。

日本銀行のホームページによると、

・国債の発行…入札の通知、応募の受付、払込金の受入れなど
・国債の登録・振替決済…国債の登録、振替など
・国債元利金の支払…国債の利払・償還、国債証券の利札・券面の回収など

 日銀の国債に関する業務として、国債の償還も含まれています。
 市中銀行が保有する満期が到来した国債は、日本銀行によって償還され、日銀当座預金にその代金が振り込まれることになりますが、それでは、日銀が保有する満期が到来した国債はどうなるのでしょうか。

 ●政府債務の償還と財源の通貨発行権(借換債と交付債 )について:桂木健次_研究ノート(PDF)

 日銀が保有する満期が到来した国債は、金利が発生しないために同額の現金資産と同じ取り扱いになります。
 つまり、満期到来国債は、現金(日銀当座預金:ベースマネー)と同じ扱いになります。
 しかし、ここで日銀にとっては困ったことが起こります。
 日銀にとって、現金とは負債であり、資産ではありません。
 国債は政府の負債ですから、日銀は国債を資産として保有できますが、日銀は自らの負債として現金を発行していますから、現金を資産として保有することができません。
 つまり日銀を政府から独立した経済主体と考えれば、現金は、日銀当座預金として日銀以外の経済主体が保有していなければ、会計上の辻褄が合わなくなってしまいます。

 この問題を解決する方法として、特に自国通貨建て国債の場合には、満期が到来して金利支払いの必要がなくなってしまうと、それは同額の自国通貨(法定貨幣)の資産になる以外にありません。
 自国通貨建てで発行されているので、他国通貨の資産として取り扱うわけには行きませんし、金利の抜けた満期到来国債と等価交換が可能なのは、自国通貨のベースマネー以外にはありません。

※―日銀保有の満期到来国債を会計的に処理するプロセスー※

 こうした会計上、帳簿上のおかしな点を処理するために、日銀と政府は以下のプロセスを踏んで処理しています。

 同時に満期が到来して金利が抜けた国債は現金となり、国債整理基金特別会計に一旦預けられます。

 政府は日銀の依頼を受けて、借換債を額面より安い割引債として市中銀行に発行します。
借換債を売った代金として、市中銀行から政府が受け取った現金(ベースマネー)は、公債金として特別会計の国債整理基金に繰入れられます。


③ 市中銀行に売り出された借換債を、今度は日銀が額面通りの金額で買います。
 →市中銀行は割引かれた値段分儲けることが出来ます。


④ 日銀は、特別会計の国債整理基金に繰り入れられていた現金(=保有国債の満期到来によって生まれた現金)を市中銀行に渡すことで、帳簿の帳尻を合わせることができます。

  こうして、日銀は新たに現金(日銀にとっての負債)を発行することもなく、借換債を償還していることになります。

 さらに、政府は何の負債を負うこともなく、民間銀行から特別会計の歳入財源である公債金を引き出すことが可能になります。
 このプロセスが、いわゆる国債の貨幣化(マネタイゼーション)と呼ばれるものです。

 要するに、国債の発行とは、貨幣の発行と全く同じものになっています

 【財政法と国債の貨幣化】

財政法5条では、
「すべて、公債の発行については、日本銀行にこれを引き受けさせ、又、借入金の借入については、日本銀行からこれを借り入れてはならない。」
 と規定されており、公債即ち国債を日銀が直接引き受ける(日銀が国債を直接買い取って政府が現金を調達する)ことが禁じられています。


 しかし、この満期到来国債の処理プロセスから、財政法5条の規定には全く抵触せず、すなわち日銀に国債を引き受けさせる必要もなく、政府は現金を調達できることになります。


 また、このプロセスの過程で民間銀行の現金資産(日銀当座預金)も増えていますが、これはすなわち政府による借換債の発行自体が、政府による民間銀行への貨幣供給、すなわち通貨発行権の行使であると言えるのではないでしょうか。

 そして何より重要なことは、国債の償還は税を財源としているのではなく、自らの通貨発行権を行使して償還しているということです。

 つまり、国債(政府債務)を償還するのに税金は不要ということなのです。したがって、国の借金問題と国債償還の実態について言えば、世間に流布しているのは、『国の借金問題は、「政府債務(国債)の償還は、税によってなされる』が前提ですが、しかしながらその実態をみると、日銀保有の国債償還は借換債の発行によってなされており、国の借金問題、すなわち「政府債務は税によって償還されなければならない」というのは、虚言ということができます。

 以上から、日銀保有の国債利払いは税金で賄う必要はなく、政府の債務問題は政府によってつくられたものということができます。

 何故こうした偽りの情報が流布されるかと言えば、現在の主流派経済学者の立場、政界、官僚の立場から現状を否定する意見は出しにくいということにあるのかもしれません。

 しかし、それによって大きな被害を受ける一般国民は大変です。一刻もはやく、正しい道に経済政策を戻して欲しいものです。

4)リフレ政策(インフレ目標と量的緩和)

 主流派経済学では中央銀行と民間銀行の機能の違いが理解されておらず、間違った金融政策が実行され、デフレ脱却が出来ていません。

 主流派経済学者による「デフレ脱却のため」という名目で実行された「リフレ政策」が、ほとんど効果を上げていません。何故でしょうか。

「リフレ政策」とは、、日銀は「インフレ率を2%にする」というインフレターゲット目標を掲げ、その目標を達成するために、大規模な量的緩和(マネタリー・ベースの増加)を行うというものです。

 マネタリー・ベースとは、銀行が日銀に開設した「日銀当座預金」のことで、銀行が保有している国債や株式を日銀が“大量買い”して、その対価として「日銀当座預金」を増やせば、銀行は積極的に企業などに貸し付けることで、市中の通貨供給量(現金と預金通貨)を増やすことができると考えました。

 しかし、銀行はマネタリーベース(日銀当座預金)を原資として貸し出しをしているわけではありません。貨幣が市中に供給されるのは、「信用創造」によって借り手が銀行に融資を申し込んだときになります。また民間企業は、日銀との直接取引はできず、融資を申し込むことはできません。

 ところが、現在はデフレなので投資を行う企業がおらず、融資が行われず、いくらマネタリーベースを増やしても、貸し出しが無いために「信用創造」に繋がらず、貨幣供給量は増えません。

 しかし、民間に借入れの需要がある場合、金融政策は有効に機能します。例えば、借入れ需要が多すぎて、銀行が貸し出しをしすぎている場合、すなわち「インフレ」の場合には、日銀が日銀当座預金を操作して金利を上げることで、貸出しを抑制できれば、インフレを抑制できるかもしれません。

 しかし、デフレのときのように、民間に借入れの需要がない場合には、マネタリーベースを増やしたところで、銀行の貸出しは増えようがありません。

 信用創造によって預金通貨が増えるから「マネタリーベース」が増えるのであって、マネタリーベースが増えるから預金通貨が増えるということではありません。

 ところで大きな問題は、主流派経済学は、「中央銀行がマネタリー・ベース(日銀当座預金)を操作することで、貨幣供給量を増やしたり減らしたりしている」と言っています。

 これは銀行の信用創造機能を知らないか無視していることからくる、大きな誤謬と言えます。

  以上、通貨発行権、財政ファイナンス、日銀保有の満期国債の償還、リフレ政策を概観してきましたが、そこからは政府が主導する財政破綻を促すもの、政府の景気拡大の方策は見えてきません。

 いずれにしても、政官学が間違った仮説から導き出された結論を、ただひたすらに守って行こうとする頑なな姿勢が、現状を招いているといっても過言ではないものと思われます。 (続き)


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