資源小国、日本が変わる?


 皆さんは、日本の国土面積はどれくらいあると思われますか。

 学生の頃、試験に出たものでしたが約37万8,000km2が正解のようです。

1 国土面積

 世界の国々から面積の多い国順のランキングと見ると、日本は61位。日本よりも面積の広い国が60カ国もありますが、全体で見るとどうでしょうか。

 世界で最も大きい国はロシアで、その面積は日本の45倍、次に大きい国はカナダで、日本の約27倍になっています。

 次に大きい国は中国で約26倍、アメリカ合衆国は日本の約25倍あります。そしてブラジルは22.5倍、オーストラリアは約20倍となっています。

 逆に日本よりも小さい面積の国は、例えばシンガポールは東京23区とほぼ同じ大きさ、またヨーロッパのベルギーは日本の約12分の1、リヒテンシュタインは瀬戸内海の小豆島とほぼ同じ面積と言われています。

 陸地面積では日本は世界で61位ですが、海を加えるとその面積はどれくらいになるのでしょうか。

 国の主権が及ぶ陸地の領土と同じように、海にも国の主権が及ぶ「領海」があり、海に面する沿岸国の沿岸から一定距離内の海域が領海になります。
 沿岸国の管轄海域は国連海洋法条約によって定められており、この条約に基づき、沿岸国では引き潮時の海岸線から12カイリ(約22キロメートル)までが領海になります。沿岸国の主権は領海の上空や海底の地下にまで及び、漁業や石油や天然ガスなどの資源開発を独占的にでき、許可なく領海に外国船が入った場合には自国の法律で取り締まることができます。

ただし、外国船には沿岸国の平和や安全を害しない限り、領海を自由に航行できる「無害通航権」が認められています。
 沿岸国は、領海の外側の、海岸線から24カイリ(約44キロメートル)以内の海域を「接続水域」といい、領海内への不法侵入や銃器・麻薬の密輸などの犯罪を取り締まり、また感染症の拡大などを防ぐため沿岸国で必要な規制を作成できます。


 接続水域の外側の、海岸線から200カイリ(約370キロメートル)までを「排他的経済水域(EEZ)」といい、ここでは漁業や鉱物資源の開発などの経済活動の権利を沿岸国が有しており、他国は無断で漁や資源開発はできません。ただし、EEZ内では船の航行や航空機の上空飛行、海底の電線・パイプラインの敷設は他国でも自由にできます。

EEZや領海などに含まれず、どの国の権利も及ばない海域が「公海」で、公海上では各国は航行や漁業などが自由にできます。

 では、この排他的経済水域を含めると、日本の領土はどの程度のものになるでしょうか。

 日本の領土は約38万平方キロメートルで世界第61位の小さな国ですが、EEZと領海を合わせた海洋面積は約447万kmを誇る世界第6位の海洋国家です(図3)。

 そして、日本周辺の海は南北に長い日本の国土は亜寒帯から熱帯にまでわたり、水産資源に恵まれており、寒流の親潮と暖流の黒潮が流れ込む日本近海は魚を育むのに適しており、世界有数の漁場になっています。
 また、日本の陸地はエネルギー資源に乏しいのですが、EEZ内の海底や海底下には石油や天然ガスのほか、分解すると天然ガスの成分であるメタンガスが得られる次世ネルギー資源、メタンハイドレートなどが大量に存在していることがわかっており、海域はエネルギー資源の宝庫でもあります。

2 資源

 皆さんは、2010年9月7日沖縄県尖閣諸島付近で操業中の中国漁船と、これを違法操業として取り締まりを実施した日本海上保安庁との間で発生した「尖閣諸島中国漁船衝突事件」をご記憶でしょうか。

 民主党政権時代に起きたことですが、中国人船長を海上保安庁が逮捕したことで尖閣諸島問題が勃発し、 日中間の緊張が一気に高まり、中国は日本の中国依存度が高いレアアースの輸出を禁止しました。これによって、レアアースの供給量が一気に減り、2010~2012年の間、価格が急騰しました。

  日本は資源小国と言われており、日本は資源を輸入し、資源を加工して輸出を伸ばし外貨を稼ぐ「加工貿易」の国として知られていました。この資源小国の日本に対して資源の輸出禁止を取ることによって、自国の要望を飲ませようとする「脅迫」的行動を中国政府は取りました。

 ここから、資源小国「日本」の悲しさが窺われます。

 日本の鉱物資源の輸入割合は表1のようにほぼ100%であり、日本には加工貿易での道しか残されていません。

 ここで、どの国に、何を特に依存しているかと言えば、「レアアース」の中国依存度がけた違いに大きいことが分かります。

銅や亜鉛のような「ベースメタル」は多くの国からの輸入に頼っていますが、「レアアース」に関しては中国が圧倒的です。

 このことが、中国の日本への「レアアース」禁輸に繋がっていきます。1国に資源を集中すると、世界が平和な民主主義国だけなら良いのですが、他国を恫喝、脅迫するような国が存在する中で、そういう国に資源輸入を集中することは非常に危険ということが分かります。

 レアアースは現代の産業の“ビタミン”とも言われるもので、現代社会ではテレビ、パソコンから自動車に至るまで、実に多くの機器類に使われています。

 ところで、現在、確かに日本はエネルギー・金属資源はほぼ100%海外に依存していますが、日本は本当に省資源国なのでしょうか。

3 日本の資源

 排他的経済水域の海洋を含めた国土で資源を見るとき、陸地だけの時とは全く違った図が見えてきます。  日本周辺には、メタンハイドレード、石油・天然ガス、海底熱水鉱床、レアアース泥等、海底資源が埋まっています(図6)。

 一般に海底資源は、(1)海底石油・ガス(石油・天然ガス)、(2)熱水鉱床(金・銀・銅・亜鉛・鉛)、(3)ガスハイドレート(主にメタン)、(4)マンガン団塊・マンガン団塊、コバルト・リッチ・クラスト)に分けられ、日本近海では、海底熱水鉱床、コバルト・リッチ・クラスト、メタンハイドレートに含まれる鉱物資源が豊富にあり、およそ300兆円相当の製品価値があるとされています。

 南鳥島周辺のレアアースを豊富に含む海底の泥は2012年(平成24)に東大チームが発見し、チームは島南方1千平方キロの範囲に国内需要の230年分に当たる680万トンが存在すると推定していましたが、調査範囲を2500平方キロに拡大し深さ5700メートル前後の25地点で詳しく分析した結果、15種のレアアースが計1600万トン存在することを突き止めたそうです。

 元素別の埋蔵量は、医療用レーザーなどに使うイットリウムが世界生産量の780年分、電気自動車のモーターに使う永久磁石に欠かせないジスプロシウムは730年分、次世代記録素子の材料となるユウロピウムも620年分など、先端技術に必要な元素が豊富に存在することが分かりました。

 レアアースは電子機器などの材料に添加すると性能が飛躍的に向上するため、ハイテク産業に欠かせませんが、世界生産の9割近くを中国が占めており、もしも可能であれば日本が自由に採掘できる鉱床開発が急務になっています。

 東大の加藤泰浩教授は「埋蔵量が十分あることが改めて確認できた。今後は引き揚げ方法を早く確立し、鉱床の事業化と産業化を急ぎたい」と話しておられます。

日本ルネッサンス第519回『週刊新潮』 2012年7月26日号で、櫻井よしこ氏が述べておられます。

『本州から1800キロ、わが国の最東端に位置する南鳥島の排他的経済水域(EEZ)の海底で、膨大な量のレアアースを含む泥(希土泥)が見つかった。レアアースの濃度が1000ppmから1500ppmという非常に高品質な泥で、濃度が400ppmの水準にとどまる中国の鉱床より数倍、良質であることも判明した。発見したのは東大大学院工学系研究科加藤泰浩教授の研究チームだ。

 教授室に加藤氏を訪ね、約90分にわたって話をきいた。46億年にわたる地球生成の謎に魅せられた根っからの地質学者が抱いている「日本のために役立ちたい」という熱い思いが伝わってきた時間だった。

・・・・・

「南鳥島の件については5年も前から経済産業省に報告し、探査・研究への支援を要請しました。国家的プロジェクトに位置づけ、十分な調査を行い、中国がそれと気づかない内に開発が軌道に乗っていたという形をとれればいいと思ったからです」

 加藤氏らは経産省の支援を待ち続けていた。その間も国際社会は、希土全体の97%を産出する中国に依存し続けた。中国は唯一の供給国の強みを利用して、供給する見返りに最先端技術の中国への移転を要求するなど、希土を戦略物資として活用した。切羽詰まって中国への技術移転を進める日本の企業も少なくない。

 資源国の中国に技術国の日本の技術を奪われたら日本は無力化し、それはあまりにも、未来世代の日本人に申し訳ない。そう考えて加藤氏は経産省の支援を熱望したが、経産省は1ミリも動かなかった。氏はさらに発奮した。研究者としてここで出来ることのすべてをやろうと決意したのだ。

・・・・・

 南鳥島の水深5600メートルの海底に広がる希土泥は、陸上の鉱床の中の希土に較べて、いくつもの利点がある。まず希土泥には鉱床よりもはるかに多くの重希土が含まれている。

 16種類ある希土は大別して軽希土と重希土に分類されるが、とりわけ重要なのが重希土で、ハイブリッドカー、電子部品、光ディスク、エコロジー関連技術等も、また最新軍事技術も重希土なしには成り立たない。21世紀の未来産業にとってなくてはならない重希土の宝庫が海底の希土泥だ。

陸上では希土の抽出に必ずついて回るトリウムやウランなどの放射性元素が、海中の希土泥にはないのも大きな利点だ。陸と海でのこの相違は希土の生成過程の相違から生まれる。陸上の希土は、マグマの活動によってさまざまな物質が濃集して出来るが、そのとき放射性元素も濃集されてしまう。このため、米国にも希土の鉱床があるが、放射性物質、とりわけトリウムの扱いが難しいために、米国は採取していない。他方、中国は放射能など構わずに採取する。結果、鉱床のある内モンゴル自治区では住民への深刻な健康被害が報告されているが、そんなことは中国政府の眼中にはないのである。対照的に、海の希土泥は海水中の希土だけが濃集して出来たために、放射能の心配がないのだ。

もうひとつの利点は、海では希土の抽出が容易なことだ。希土は酸で分離して採り出す。これをリーチング(浸出)と呼ぶ。中国は硫酸アンモニウムという強烈な酸を、たとえば鉱山全体に大量に注入して、希土を溶かした酸が花崗岩の不透水層にぶつかる所に管を設置して採り出す。この手法では大部分の酸が河川や田畑に流出して環境を破壊する。中国の手法はそもそも大いに問題だが、海底の希土泥ではこんな手法は不必要だ。加藤氏が語った。

「海底の希土泥は美容用泥パックと同じ、キメ細かい粒子の泥です。そこに薄い塩酸を注入し、短時間置くと殆どの希土が抽出されます。抽出後は泥を水酸化ナトリウムで中和して海に戻せば、環境への負荷はありません」

まさに夢の泥なのである。その夢の泥がわが国の南鳥島の海に、大量に存在するのだ。南鳥島は周囲7.6キロの三角形の島である。自衛隊員と気象庁の職員が常駐しており、滑走路もある。中国も決して手を出せないしっかりした日本の領土だ。

試算ではその海で採掘船たった1隻で、1日1万トンの泥が採取出来る。年間300万トンとして、そこから日本の年間消費量の10%の希土が、そして最重要の重希土のひとつであるディスプロシウムの場合、年間消費量の20%弱が採れる。これらは現行価格で700億円に相当する。

 埋蔵量は日本の消費量の200年分に相当すると報じられたが、「桁が違う」と加藤氏は言う。恐らくその10倍から100倍に上る量、2万年分も眠っている可能性があるという。

 加藤氏らの発見はレアアースに関する世界情勢を大きく変える力となりつつある。だからこそ、独占体制を揺さぶられる中国ではメディアが加藤氏らの功績を「海底のレアアースは使えないし、とっくに知っている古いニュースだ」(中国経済網2011年7月1日)などと批判した。中国にとってどれほどの衝撃であっても、そんなことは気にしなくてよいのである。

 世界有数の希土泥を自国海域に有する日本は、中国の傍若無人の振る舞いを抑止する力を得たのである。未来産業の旗手として世界戦略を構築する力が日本に与えられたことの持つ戦略的意味は非常に大きい。この僥倖を日本飛躍の土台とすべく、政府は国を挙げて加藤氏らを支援しなければならない。この貴重な資源を日本の未来に活かせないようでは、日本国の名が泣くであろう。』

 メタンハイドレト、海底熱水鉱床 コバルトリッチクラスト、マンガン団塊、レアアース堆積物、 海底鉱物資源は、ある特定の場所に分布しています。

 実は日本は資源大国なのです。しかし、問題はこうした海底資源利用に至るまでに多くの開発費用が必要になることで、財政健全化、プライマリーバランス黒字化を強烈にすすめる財務省にとっては、“必要悪”の存在ともいえます。

 したがって、机上で空想にふける、論文を書くというような財政出動を伴わない活動は良いのですが、海底探索、海底資源開発などのように、財政が必要な研究開発には資金供給が抑えられ、必ずしも日本の海底資源利用に向けての研究開発、実用化に向けての資金提供は多くはありません。

 海底レアアース開発、利用研究よりも、民間主導、研究開発費が抑えられる3R(リデュース・リユース・リサイクル)を中心にレアアースを使わない、レアースの代替材の開発のように、研究開発費を抑える方向での研究開発が主になっており、資源大国日本の海底資源の研究開発はあまり進んでいるとはいえません。ここに大きな問題があります。

 また、もうひとつ言えることは、これまでの長年の陸上資源の利用で、利権構造が確立し、現状の需要・供給構造の変革を臨まない人々、組織が存在することです。

 こうした組織は様々なネガティブキャンペーン、プロパガンダを実施し、新しい開発、組織を中傷し、そして新しい開発、組織を失敗へと導きます。

 政府・財務省は既存勢力のネガティブキャンペーン、プロパガンダにのり、特に開発・研究に資金が必要な分野を除いて、既存、もしくは費用のかからない分野に注力する傾向があり、多額の資金提供が必要な海底資源などの研究開発には距離を置く傾向にあります。

 しかし、代替材よりもレアアースを使用した財の性能・性質が優れている場合が多く、将来中国のような資源を脅迫に使うような国に依存しない独自の資源を持つためにも、名前の美しい「財政健全化・PB黒字化」に惑わされないで、積極的に財政支援で研究開発ができる状況が作り出される必要があります。

 確かに日本は資源大国かもしれませんが、中国などを重視する既得権益勢力に押され、必ずしも埋もれる資源を有効活用しようとする新資源開発方向には動きにくい環境にあるようです。

 積極財政が求められる所以です。

4 日本の資源

 過去日本は、新幹線、原子力、半導体、ハイブリッド・カーなどの新しいことにチャレンジして、現在の日本を築いてきました。その日本が新しいことに目をふさぎ、既得権益の上に胡坐をかき現状維持に終始するとき、日本の発展は終わることになります。

  海洋資源開発研究は当初採算ベースに乗りにくく、政府が全面的に財政支援をする必要がありますが、現実には政府研究開発資金が減少する中で、PB黒字化目標の中、未来への投資には財政資金は回らないのが実情のようです(図7、9)。

 しかし、今こそ日本の手持ちの資源を開発し、過去の日本のように未来を開拓していく気概が求められていると思われます。

 次に考えなくてはならないことは、世界が使っても数百年~数千年に渡って利用できるだけの資源があると言えば、日本だけで囲い込まないで、米国、英国などの民主主義諸国と共同研究・開発を行い、資源を共有することも必要だと思われます(勿論、資源を技術情報開示や恫喝に使用する中国は除きます)。

 勿論、EU、QUAD、AUKUSなどとの共同開発も考えていけば良いと思われます。

 いずれにしても、世界が求めている希少資源を共同で研究開発、利用できることができれば、日本の世界への貢献は大きいものになることが想定されます。

 日本が世界により有用な国になることを、心から願うものです。


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