政府は所得減、物価高の日本を救えるか


―間違いを認めない日本政府―

 コロナ禍が進む中、ロシアーウクライナ戦争が勃発し、資源供給の途絶、サプライチェーンの破壊などで、世界経済情勢は大きく変わることになりました。

 また、自然環境も大きな変化を見せ、日本では梅雨が極端に短い異常に暑い日が続いています。

 こうした自然環境、経済情勢の激変の中で、コロナの変異株が再び力を取り戻し、観光・飲食業にダメージを与える一方、日々の生業における食料、エネルギー価格の上昇は消費者の生活を直撃し、圧倒的に中小企業が多く経営環境が良くない状況の中で多くのマスコミ、メディアは賃上げを要請し、また物価の抑制を主張しています。確かに輸出主導の大企業は賃上げの負担には耐えられますが、しかし零細な中小企業には賃上げの余力はありません。

 過去、韓国でムンジェイン大統領が企業の業績如何に関わらず強引に賃上げを要請し、企業の反発による人減らしのために雇用環境の悪化を招き経済に大きなダメージを与えた弊害を思い出します。

 経済の実情を考えもせず、ただ物価が高騰しているから賃金を上げるように短絡的に勧める政府、メディアは、韓国を思い出す必要があり、経済の実情を考えないその場限りの対策は後日大きな弊害を伴って経済に跳ね返ってきます。

 現在の日本経済、消費者の物価高騰に伴う生活苦を解決するためには3段階の道筋が必要になります。それは、短期、中期、長期の経済対策であり、この時期に財政問題を中心に据えることはできません。

 現在政府が行っている緊縮財政、プライマリーバランス黒字化政策は凍結し、財政措置を積極化させる必要があります。

1 経済政策

 1)短期的政策(2~3年)

 短期的には、全ての消費者の負担感を増す消費税の「消費減税」を実施し、物価高の衝撃を抑え、消費者心理の悪化を抑える政策を講ずることが必要になります。

  特に、ガソリン・軽油の2重課税は国民を愚弄する“財源確保”から派生した現在の水飲み百姓と目される、“消費者”の「容易に取れる所から取ろう」とする政府の暴力ともいえるものになっています。

 消費税を減額、もしくは廃止するだけで、その消費者への恩恵は20~30兆円程度とかなりの負担軽減につながることが想定されます。

 そして消費者への直接給付金を実施し、消費者の心に安心と政府に対する信頼感を与えることが実践されれば良いと思われます。

 長期に渡るデフレ経済に追い打ちをかけるようなコロナ禍で賃金低下に歯止めがかからない今、更にロシアーウクライナ戦争に端を発する資源・エネルギー価格上昇によるコストプッシュインフレによって日本経済は今のままでは不況下の物価高、「スタグフレーション」に陥るのは必至と思われます。

 この苦境下、緊縮財政、プライマリーバランス黒字化政策は凍結し、果敢に現状の苦境を解決していく施策が求められます。

 そしてこの短期的経済活性化施策が実施されている間に、中・長期的施策を同時に立案、立ち上げていくことが求められます。

 2)中期的政策(5~10年)

 中期的経済政策は、金融緩和措置と政府による積極的な財政措置が求められます。

 簡単に言えば、故安倍晋三元首相が提唱された「アベノミクス」を緊縮財政、プライマリーバランス黒字化政策を凍結し、果敢に実行していくことになります。

 アベノミクスが頓挫したのは、金融緩和政策は財政に直接影響しないためにスムーズに進みましたが、財政政策は財政支出に直接影響するために財務省の抵抗にあい、十分に機能させることができませんでした。そして、最も大切な成長戦略も財政支出を伴うものであるために財務省の了承を取り付けるのは難しく、結果として鳴かず飛ばずのものに終わりました。

 結局、アベノミクスの失敗要因は(失敗といって良いか分かりませんが)、財政政策が不徹底だった所にあります。そして致命的だったのは、財務省の強力な政治力による「消費増税」というデフレ政策を実行したことにありました。

 こうしてアベノミクスは頓挫することになりましたが、今度はその轍を踏まず、強い意志を持ってアベノミクスをその理想通り実施することです。

政府は日本経済の緊急事態宣言を出し、緊縮財政、プライマリーバランス黒字化政策を凍結し、できれば政府は財務官僚を、日本の経済発展よりも債務の削減・変換視点からのみ「財政収支」に目を向ける官僚から、日本経済発展の立場から「財政収支」を見る官僚に人員配置を変え、日本一丸となって、そして強い意志力でアベノミクスを実践し経済活性化を実践する人事体制に変換することが求められます。これを「第二次アベノミクス」「新生アベノミクス」とすれば、「新生アベノミクス」の実現が日本経済復興の鍵になりそうです。

勿論、第一次アベノミクスをそのままを踏襲するのではなく、第一次アベノミクス後の技術革新、特にAI、IOT、量子コンピュータ、サイバー空間、脱炭素社会、海洋・宇宙開発等、多くの分野で再整理が必要ではありますが、未来の日本の成長戦略として深く思いを巡らせば、その解は自ずと出てくるものと思われます。

そして1995年、村山内閣の大蔵大臣、竹村正義氏が国会で「財政危機宣言」を発したことにより、1997年、橋本内閣は消費税増税、国土計画の廃止、公共投資削減を開始しました。しかし国土計画を今一度見直し、公共投資を拡大させ、国、国土の再生、インフラの整備を充実させ、これによる設備投資でインバウンドへの対応を深めるとともに、日本の経済・雇用を拡大させ、コストプッシュ・インフレではなく、ディマンドプル・インフレにつなげ、日本国民の生活水準を上げる施策ができればと思います。

 これは1930年代に アメリカのフランクリン・ルーズベルト大統領が世界恐慌克服のために行った一連の経済対策「ニューディール政策」に対応するものとなります。

 現在日本のインフラ設備は老朽化しており、このままでは必ず日本国民の桎梏になり、国民に大きな災いをもたらすようになります。

  機動的な財政政策と金融緩和措置が連動することにより、企業の設備投資意欲も向上し、賃金上昇に伴う「良いインフレ」が期待できることになります。

 3)長期的政策(1030年)

 日本の経済構造の変革を行います。

 経済成長の基本は付加価値生産を高めることで、この基本は製造業にあり、素材資源に手を加えることで付加価値を生み出し、その付加価値の対価を得ることで経済規模は拡大していきます。

 例えば自動車などは、鉄鉱石の塊とも言えますが、鉄鉱石に手を加えることによって鉄鉱石は路上を走る車に変化し、価値は鉄鉱石の幾倍にも大きくなります。

 特に最近ではこうしたハードの素材だけでなく、プログラミングのようなソフト素材に大きな価値が認められ、経済成長に寄与しています。

小売・卸売の商業は付加価値生産ではありません。物が生み出されて交換することによって初めて価値が発生します。すなわち商業とは仕入れ値と売値の差額を利益とする「差益商売」であり、物を生み出す製造業とは根本的に異なります。

富の源泉は新しい“もの=価値”が生み出される製造業にあり、製造業が国内に存在すること、製造業を国内回帰させることが必要になります。

過去1990年のバブル崩壊から始まる未曽有の円高は、大量の製造業の国外逃避を促しました。それにより、韓国、とりわけ中国へと製造業は低コスト生産を求めて移動することになりました。

国内製造業がまだ強い頃は国内雇用が維持されつつ、円高で安い品が輸入されることで、消費者は高賃金・輸入低価格商品によって、生活の質を急速に高めることになりますが、製造業の絶え間ない海外生産拠点構築と技術流出はいつしか国内製造業の空洞化を招くことになり、鉄鋼、造船、家電、半導体の主要産業はほぼ、韓国、中国に移転し、日本国内産業は縮小、後退していくことになりました。

現在は、これまでの“円高”とは逆の“円安”が日本を覆っていますが、この“円安”は日本の製造業が大挙して製造拠点を海外に移すことによって、付加価値生産の減少に加えて、国内の付加価値生産能力の減退により、貿易構造の悪化、そして海外投資も利益を海外に再投資するという資金循環ができあがることによる経常収支の悪化等々により、貿易・経常収支の赤字化が現実のものになるにつれて引き起こされてきたもので、一朝一夕に“円高”に転換されることはありません。

考えてみますと、高度経済成長期~バブル全盛期の頃の日本の製造業の鉄鋼、造船、家電、半導体、そして自動車産業はまだ強いものがありました。しかし現在、鉄鋼、造船、家電、半導体は零落し、自動車産業だけが日本の主な製造業として残っているだけで、他の製造業の主な製造拠点は韓国、中国に移り、ただ自動車産業だけが日本国内でその異彩を放つことができているだけです。

ここに日本経済の零落を見ることができ、稼ぐ力の弱まった日本は財政支出を国債で賄うことしかできなくなり、国債の金利負担が大きくなることから低金利政策が継続され、円安が加速することになりました。

では、現状、どうすれば良いのでしょうか。グローバル経済と言われている現代、資本は自由に海外を巡ります。

一般に、グローバル化とは、資本や労働力の国境を越えた移動が活発化するとともに、貿易を通じた商品・サービスの取引や、海外への投資が増大することによって世界における経済的な結びつきが深まることを意味します。

経済構造改革は国内経済を活性化させるものですが、グローバル化の便益を引き出す過程でも重要です。すなわち、市場メカニズムを十分に機能させ、広く生産性の向上を図るとともに、労働や資本等を生産性の低い分野から高い分野へ移動させることが経済構造改革の大きな目的ですが、これは海外との経済関係の緊密化からも便益を引き出すことにつながるものです。

投資や雇用、あるいは生産活動の分野で規制が残り構造改革が不十分な場合や、人材育成が技術革新に適応できない場合等では、グローバル化の便益を引き出すことができないことがあります。

それどころか、投資の停滞や工場の海外移転、失業の増加、所得格差の拡大を生じ、経済が厳しさを増すことさえあります。

勿論規制が全て悪いという訳ではありません。例えば、日本では、というよりも世界では農業のように自国の生存に絶対的に必要な分野には規制をかけています。

そうしないと、国民の生命に係わる自国の食料安全保障に責任が持てなくなるからです。

では日本経済再生にはどうすれば良いのでしょうか。 簡単に言えば、世界の資本が日本に集まるようにして(勿論、日本の資本が国内に滞留するようにもします)、投資を拡大し、生産性の低い分野から高い分野へと産業構造を移動させることができれば経済構造の改革に繋がり、常に世界のリーディングカントリーとしての立ち位置を維持することができます。

コロナ禍、資源・エネルギー高、円安と続く現在の日本はどうでしょうか。

バブル崩壊、円高、デフレが20~30年も続いた日本で起きたことは、

1997年、橋本内閣による消費税増税、国土計画の廃止と公共投資削減、財政構造改革開始によるプライマリーバランス黒字化政策により、財政政策は基本的にカットされ、教育・研究費もカットされ、日本では投資の停滞や工場の海外移転、所得格差の拡大を生じ、経済が厳しさを増してきました。

投資や雇用、あるいは生産活動の分野で、特にDXの分野で十分なルール作りができず、欧米諸国に遅れを取り、また人材育成が技術革新に適応できず、グローバル化の便益を引き出すことができない状態が続くことになりました。

世界から資本が集まるためには、グローバル化の便益が引き出される”日本になる”必要があり、そのためには、20~30年も続いたこれまでの財政不足を口実にした国土、インフラ設備等の放置、教育・研究開発資金の減額による人材育成の放置、研究環境の悪化放置などを改める必要があります。

正しく、緊縮財政、プライマリーバランス黒字化政策を凍結し、積極財政による国土強じん化、産業インフラの整備、グローバル化の便益を引き出すことができる法的整備、ルールの整備などが求められます。

長期政策は、こうした観点から日本の国土を再設計し、世界の資本が日本に集まるように仕組みを考える必要があります。

繰り返しますが、ここに緊縮財政、プライマリーバランス黒字化政策はありません。経済が発展してこそ税収は多くなるのであって、経済を萎縮させ、停滞させることによって税収が増えることは絶対にあり得ません。

このあり得ないことを今も続けているのが、世界で唯一日本です。言います。プライマリーバランス黒字化政策を後生大事に行っているのは、世界で日本だけです。自分で自分の首を絞める「プライマリーバランス黒字化政策」を行っているのは日本だけで、その結果日本だけが世界の発展から取り残されつつあることを、是非皆さんに知って頂きたいと思います。

円安で困った、資源・エネルギーの価格高騰で困った、企業経営ができない、生活が困窮する。

仕方ありません。そうした政策運営しかできない日本政府を選んだ私たちが「馬鹿」だから、仕方ありません。

しかし、私たちの力で、この日本を変えようではありませんか。安倍晋三元首相が亡くなった今、真剣に日本の未来を皆さん一人一人で考え、変えていく必要があります。

4)日本は債務残高が多くて破綻するか

最後に、積極財政を実施すれば、国債発行が多くなって財政破綻するのではないかという懸念が指摘されると思います。

現在日銀が低金利政策を実施しているのも、国債の金利負担を少なくするための手段であり、国債発行が間断なく続けば税収を超えて金利負担が増し、何時しか財政は破綻するのではなかろうか、というのが一般的な考えで、政府もそのように考えている節があります(勿論、公式には日本は財政破綻する恐れはないと言っていますが。図4参照)。

 国債残高が増加することによって、日本が財政破綻することはありません。

 その要因を列記したいと思います。

  (1)国債の借り換え

国債は、満期がくれば借り換えが可能で、償還の必要がありません。

(2)日銀引き受け

すでに日本銀行が保有する国債は政府の「実質的な負債」ではありません。理由は、日銀が日本政府の子会社で、親会社・子会社間のおカネの貸し借りは、連結決済で相殺されてしまうためです。

 日銀が保有する国債について、永久に借り換えをすればいいので償還の必要はありません。かつ国と日銀の親子間の利払いも連結決算で相殺され、利払いも不要になります。

 日本政府は、律儀に日銀保有国債に利払いをしていますが、日銀の決算が終わると「国庫納付金」として日銀の利益は国に戻り、国庫納付金は一般会計に組み込まれます。

 (3)日銀引き受けにより、利払い費は日銀引き受け分を除いたものだけにかかる。

2021末時点で、国の国債発行残高は1218兆4330億円、日銀の国債保有残高は521兆1195億円であり、市中国債は697兆3135億円であり、支払い金利は697兆3135億円にかかり、日銀保有の521兆1195億円は利益を生み、それは国庫納付金になり、負債ではありません。

したがって、図4でいう公債残高を基準にした利払い費は少なくなります。

(実は現在国の発行した国債残高1218兆4330億円を国民の借金と言えば、金利を低くしなければ金利負担が大きくなり、財政に響くことになります。もしもこれを697兆3135億円とすれば、金利が少々高くてもよく、高金利にして円安を抑えることができます。日銀がそうしないのは、政府の口車に表向き合わせて円安を誘導して製造業を国内に誘導し、産業基盤を国内に誘導、確立させる狙いがあるとも勘ぐることもできます。)

しかし、いずれにしても国債の日銀引き受けで利払い費はその分なくなり、政府が国民を洗脳する財政破綻論は無くなります。

 (4)無期限無利子国債

日銀の有する満期が来た国債から、必要に応じて順次無期限無利子国債に借り換えします。そうすると、政府から名目上、負債はなくなります。

そして新たに産業活性化のための積極財政を進めていくことができます。勿論このためには国会審議が必要でしょうが、技術論的には、財政破綻論は架空のものとなります。

 (5)財政ファイナンス

財政赤字を穴埋めするために、中央銀行が政府の国債を直接引き受けることを言います。中央銀行が銀行券を発行し、国の財政赤字を直接補填(ほてん)する行為で、中央銀行が国家財政に資金を直接供給する(ファイナンスする)という意味の名称です。

日本銀行の国債引受けは、財政法第5条により、原則として禁止されています(「国債の市中消化の原則」)。

これは、中央銀行がいったん国債引受けで政府への資金供給を始めると、その国政府の財政節度が失われ、中央銀行通貨の増発に歯止めが掛からなくなり、悪性のインフレーションを引き起こすおそれがあるからと言われています。そのため、わが国だけでなく先進各国で中央銀行による国債引受けは制度的に禁止されています。

ただし、日本銀行では、金融調節の結果として保有している国債のうち、償還期限が到来したものについては、財政法第5条ただし書きの規定に基づいて、国会の議決を経た金額の範囲内に限って、国による借換えに応じることになっています。

財政法第5条:
すべて、公債の発行については、日本銀行にこれを引き受けさせ、又、借入金の借入については、

日本銀行からこれを借り入れてはならない。但し、特別の事由がある場合において、国会の議決を経た金額の範囲内では、この限りでない。

以上のように、債務残高が多くて日本が破綻することは技術論的にあり得ません。したがって積極財政によって国の経済状況を良くし、賃金上昇にともなうディマンドプル・インフレーションが実現された暁にはインフレが進み過ぎるのを抑えるために財政支出を抑え、消費税増税で景気過熱を抑え、また金融引き締めを実行するようにすればよいのです。

日本の政府に、この決断ができるでしょうか。

何も難しいことはありません。ただ、失敗を認める勇気と正しいと思ったことを実行する決断力が求められます。

これまでの日本の政府には、謙遜さが無く、自分たちだけが正しいと思って進めてきたことが間違っていたことを認める勇気だけが不足していました。今それが必要になっています。

皆さんのご活躍をお祈りしています。


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