安部元首相暗殺の衝撃


―安倍元首相のご冥福を祈る

 安倍元首相が凶弾に倒れたのは2022年7月8日のことだった。

 事件は8日午前11時半ごろ、奈良市西大寺東町2丁目の近鉄大和西大寺駅前の路上で起きた。

 現行犯逮捕された山上徹也容疑者(41)は「安倍元首相の政治信条に対する恨みではない」と供述しているという。

 母親が某宗教団体に多額の寄付をして破産したことを理由に、その宗教団体を成敗するために、その宗教団体と安倍氏に繋がりがあると推測して安倍氏殺害に走ったという。

 二日後の7月10日、安倍元総理の殺人容疑で送検された奈良市の元海上自衛隊員・山上徹也容疑者(41)は動機について「宗教団体に恨みがあった。その宗教団体と安倍元総理につながりがあると思った」「母親が宗教にのめりこみ、多額の寄付をして破産したので、恨みがあった」「安倍元総理を銃撃した前日の未明に宗教団体の施設に向けて試し撃ちした」という趣旨の供述をしているという。

 何という暴挙。もしもそう思うなら某宗教団体と安倍氏との繋がりを徹底調査・解明し、裏をとるという当たり前の活動を何故しなかったのか。ただ自分の思い込みによって殺人をしたという、41歳という分別がある年代になっても、ただ単なる思い込みによって殺人に走るという振る舞いに暗澹たる思いを禁じ得ない。

安倍元総理を銃撃した山上容疑者の母親が信者であったとされる宗教団体が7月11日、東京都内で会見を開き、次のように述べている。MBSNEWSによれば、

 『母親が信者であったとされる宗教団体「世界平和統一家庭連合(旧統一教会)」で田中富広会長は「山上徹也容疑者は信者ではなく、過去に信者であった記録は存在していません」と話している。

 また、山上容疑者の母親について田中会長は信者であることを認め「これまでも1か月に1回程度の頻度で行事に参加していた」と述べた。

 そのうえで、団体への献金について田中会長は「献金には『月例献金』『礼拝献金』『無記名献金』など様々な種類があり、過去に高額の献金をした人もいるが、ノルマという扱いをしてはいない」と話している。

 また、山上徹也容疑者が「母親が宗教にのめりこみ、多額の寄付をして破産したので、恨みがあった」と供述していることについて、田中会長は「破綻された諸事情は、私どもは把握しておりません。献金問題については捜査中のため言及を避けます」と言っている。

 そして団体と安倍元総理との関係については「友好団体が主催する行事に安倍元総理がメッセージなどを送られたことがございます。しかし当団体の会員として登録されたこともありませんし、また顧問になって頂いたことはございません、明確に申し上げておきたいと思います」と述べている。』

 安倍氏の死亡は非常に大きな喪失感を私に与えたが、この思いは多くの人が共有するのではないかと思われる。

 安倍晋三元首相は、経済では、①「大胆な金融政策、機動的な財政政策、成長戦略の三本の矢で、経済政策を力強く進めて結果を出していく」と強調し、この「三本の矢」に代表される経済政策は「アベノミクス」と呼ばれ、このアベノミクスを推進し、デフレ脱却を掲げ、日本銀行による金融緩和を進めて雇用改善に努め、安全保障では、②特定秘密保護法、平和安全法制などを整備し、外交・安全保障とインテリジェンスの機能を強化しつつ、国家安全保障会議を創設して国家安全保障戦略を策定し、外交では、③自由で開かれたインド太平洋構想の提唱、トランプ大統領との強固な関係を構築したことなどは、特筆に値する。

 今の日本にこれだけのことを成し遂げる人材がいるかと言えば、“ノー”と言わざるを得ない。アベノミクスで成長軌道に乗りかけたときに財務省からの強い要請で消費増税を実施した結果、デフレ状態に舞い戻った記憶は今でも鮮明に残っている。

 財務省の性急なプライマリーバランスの黒字化要請は、アベノミクスの機動的な財政政策を難しくさせ、その結果成長戦略も頓挫させるものになった。

 ところで、プライマリーバランスの黒字化に連なる“緊縮財政”の流れを追うと、

1995年、村山内閣の大蔵大臣、竹村正義氏が国会で「財政危機宣言」
1997年、橋本内閣による消費税増税、国土計画の廃止と公共投資削減開始、財政構造改革法の成立2002年、小泉政権下で竹中平蔵氏提唱のプライマリーバランス黒字化目標が閣議決定
2008年、リーマンショックにより、麻生内閣はプライマリーバランス規律を解除
2013年、安倍政権でプライマリーバランス黒字化目標復活

という流れで、2002年、小泉政権下で竹中平蔵氏が提唱したプライマリーバランス黒字化目標が以後、自民党政府の基礎的政策になり、菅政権、岸田政権へと現在も続いている。

こうした財政危機宣言下での竹中平蔵氏提唱のプライマリーバランス黒字化目標に疑問を挟むことなく、というよりも是認し、多くのメディア、マスコミはアベノミクスが失敗、もしくは成果が無かったというが、もしも財務省主導の消費増税が無かったなら、そしてもしも機動的な財政政策があったなら、確実に日本経済は成長軌道に乗ったことが想定される。

 アベノミクスが失敗、もしくは成果が無かったというメディア、マスコミは、財務省のプライマリーバランスの黒字化政策を正しい政策と容認しているからであり、だからこそ消費増税を容認し、成長戦略を頓挫させてアベノミクスが失敗、もしくは成果が無かったと強弁している。

 もしもアベノミクスを妨害することなく、着実に実行していたなら、今は賃金も上昇し、現在の輸入に頼る資源価格上昇による“コストプッシュインフレ”にも消費者は耐えられる、耐えられたかもしれない。

 財務省の稚拙な、性急なプライマリーバランスの黒字化実現政策と財政健全化政策への対応が、日本経済の成長軌道を後戻りさせ、再びデフレ経済にさせ、コストプッシュインフレ下、現在消費者の賃金上昇、消費税減税を求める声に対して、財務省のプライマリーバランスの黒字化目標は逆方向に向かおうとしている。すなわち、経済停滞化による税収減を消費税率の更なるアップによって切り抜けようと画策している雰囲気が感じられる。

 いずれにしても、安倍氏が掲げた政策、思想は日本だけでなく、世界を巻き込む大きなものであり、安部氏は「日本の安部」であると同時に「世界の安部」の顔を持ち、その業績の大きさには、世界に広く知られている。

 世界からの安部元首相の暗殺死去についての意見を、2022年7月9日の日経新聞の情報を参考に簡単にまとめると、

 英紙フィナンシャルタイムズは、「政治家を狙った襲撃としては戦後で最も重大な事件の一つ」と指摘し、香港の英字紙のサウスチャイナ・モーニング・ポストは安部氏について、「中国、防衛、経済に関する日本の政策を形作った大物政治家」と指摘し、日米豪印4カ国による「QUAD(クアッド)」の枠組みを主導した功績を紹介している。

 米紙ニューヨーク・タイムズや英BBC等は電子版に速報ページを特設し、安部氏の死去といった情報を逐一速報し、トランプ前大統領との親密な関係を築いた安部氏の外交についても振り返ったとされている。

 海外首脳からのコメントも相次ぎ、

 バイデン米大統領は「私は呆然とし憤慨し、深く悲しんでいる。日本にとって、そして彼を知るすべての人々にとっての悲劇だ。・・・日米同盟と日米国民の友好の擁護者だった。・・・自由で開かれたインド太平洋という彼のビジョンは今後も続く。」と安部氏の業績を称えた。

 トランプ前米大統領は「彼は他の誰もまねのできない指導者であり、日本という素晴らしい国を愛し、大切にする人だった。彼のような人は二度と現れないだろう。」と述べている。

 インドのモディ首相は「最も親しい友人の一人である安部氏の悲劇的な死に、私は言葉にできないほどの衝撃を受け悲しんでいる。」と述べ、9日は全国的に喪に服すとも表明している。

 英ジョンソン首相は「信じられないほど悲しいニュースだ。彼のリーダーシップは多くの人の記憶に残ることだろう。」とツイッターに投稿した。

 韓国のユン・ソンニョル大統領は「日本の憲政史上最長の首相であり、尊敬される政治家を失った遺族と日本国民に哀悼の意を伝える。」と述べている。

 そして8日のG20外相会合では、各国外相から林芳正外相に哀悼の意が寄せられたとのことである。

 安部氏の死は、世界に大きな衝撃を与えたことが類推できる。

 安部氏が望んだことは何だったのだろうか。

一つ目は、万世一系の天皇制を守ること

二つ目は、デフレによって傷ついた日本経済をもう一度再興し、世界に誇れる日本にすること、

三つ目は、自力で国を守ることができる日本にすること

四つ目は、安全保障により、国の安全が保たれるようにすること

五つ目は、世界に貢献できる日本を作り上げること

 ではなかったかと思われる。

  中国、朝鮮などの系統から守られてきた神話の国日本の万世一系の秩序は世界に類がなく、まさに世界で最も古い歴史としきたり・風習を有する天皇制は世界遺産とも呼ぶべきものであり、この天皇制を守ることは、安部氏の基本にあったのではなかろうか。

 日本の高度経済成長を、その身で直接体験してこられた安部元首相は、経済成長がどれほど国民に自信と勇気をもたらし、国に明るい未来を展望させるかが分かっておられ、経済発展を心底望まれていたものと思われる。

 アベノミクスが道半ばで、周囲の理解不足で頓挫することになったが、新たに、新アベノミクスを標榜して日本の経済再建の道を歩もうとされていたのではなかろうか。

 近年、急速に経済成長を遂げてきた中国は、軍備も急速な拡大、増強に走り、経済力と軍事力により従来の国境を変えるべく、力による「現状変更」へと舵をきり、日本、東南アジア、その他諸国に圧力を加え始めている。

 ロシアのウクライナ侵攻を目にして、安部氏の思いは「憲法改正」に大きな焦点があると思われる。

平和を唱えて、ほぼ無防備状態のウクライナは、旧兄弟国のロシアから、突然侵攻を受けることになった。

 現実に覇権主義国が出現してきた以上、日本が第2のウクライナにならないという保障はない。安部氏は、国民を侵略から守るために非常な危機意識をもって、憲法改正に踏みいろうとされていたのではなかろうか。

 日本はスパイ天国と揶揄されている。日本にはスパイを取り締まる法律がない。また、安全保障が完備されていない状況では、各国と高度な機密協議、情報漏洩を恐れる会議などに参加することはできない。

 もしも日本がNATOの一員として活動したいのであれば、日本は少なくともNATO加盟国並みの安全保障が実現されていなければならない。

 日本の左派はスパイ防止法には徹底的に反対を表明し、日本の安全保障については中共よりの発言に終始し、日本国民の生命・財産・安全に対する考えがそこには徹底的に不足している。

 過去、戦中に尾崎・ゾルゲ事件があったが、その影響は第二次大戦に大きな影響を与えたことが知られている。

 日本の技術が盗まれ、機密情報が拡散する日本の現状を、安部氏は改善されようとしていたのではなかろうか。

 日本の安全は、現代社会にあってはもはや日本一国で補えるものではない。多国間で連携し、助け合って課題に対処する必要がある。

 集団的自衛権も、互いの危機を助け合うためのものであり、自分だけが良ければと思うならば集団的自衛権は必要ではない。

 確かに、過去、第1次世界大戦では同盟国のドイツ帝国、オーストリア・ハンガリー帝国、オスマン帝国と、協商国のイギリス、フランス、ロシア、アメリカ、日本という形として、集団的自衛権の形をなし、また第2次世界大戦では、枢軸国のドイツ、イタリア、日本と連合国のアメリカ、イギリス、フランス、ソ連などが連合して集団的自衛権の形をなし、集団的自衛権が必ずしもすべての国にとって最良のものになるとは限らない。

  しかし、現代社会にあって自由民主主義を標榜し、人権・平和を希求する国々が互いに協力しあう集団的自衛権は、これに反する国にとって正しく桎梏になるものと思われる。

 そして、こうした人類の平和と人権を守り、自由闊達に行き来できる世界で貢献できる日本は、また世界から必要とされることにもなる。

 世界に貢献できる、貢献する日本は間違いなく、集団的自衛権によって擁護される国にもなり、日本の安全にも大きく影響されることにもなる。

 安倍元首相は、日本の未来、日本の進むべき方向を具体的には示されなかったが、心の内では日本の国力増進、力による現状変更を企てるのではなく、現状維持をもとに、世界平和への貢献を意図しておられたのではないかと思われる。

 安倍晋三元首相に心からのご冥福をお祈りいたします。日本の未来に大きな祝福と導きがありますようにお祈りいたします。         

              合掌


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