皆さんは、宇宙事業と聞いて、何を思い浮かべられますか。ロケットに乗って大気圏外での飛行、宇宙ステーションでの生活、月世界への旅行、月面での生活、月での資源採掘等々、いろいろなことを思い浮かべられるのではないかと思います。
しかし、宇宙事業とは何もロケットに乗って大気圏外での飛行、宇宙ステーションでの生活、月世界への旅行等だけを指すのではなく、衛星データを活用して新たなビジネスを展開することも宇宙ビジネスと言えそうです。
1Tellus(テルース)宇宙ビジネス
1)概要
宇宙ビジネスは、経済産業省の「政府衛星データのオープン&フリー化及びデータ利活用促進事業」の取り組みとして提供されています。
経産省では、衛星データを活用したビジネス創出を促進する観点から、「政府衛星データのオープン&フリー化及びデータ利用環境整備・データ利用促進事業」が実施され、ユーザにとって使いやすい衛星データプラットフォーム『Tellus』の開発が進められてきました。
本事業は、これまで国立研究開発法人宇宙航空研究開発機構(JAXA)から、陸域観測技術衛星「だいち」等のJAXA所有の衛星データの提供及び技術的助言を受けており、2019年2月には「Tellus」の試作品が一般公開されています。これにより、衛星データの無償での商業利用が可能となりました。
『Tellus』とは、経産省とさくらインターネットによって、2019年の2月に立ち上げられた日本初の無料で衛星データを活用することができる衛星データプラットフォームのことをいいます。
経産省及びJAXAは、超低度衛星技術試験機「つばめ」の画像データを2019年5月より、「Tellus」を通じて公開することに合意し、経産省は、「Tellus」で提供する多様なデータセットの一部として、「つばめ」のユニークなデータを取り込むことで、衛星データプラットフォームの価値向上、新たな衛星データ活用ビジネス創出の推進を図ろうとしています。
Tellusは、「宇宙の民主化」というビジョンを掲げ、衛星データを利用した新たなビジネスマーケットの創出を目的とする、日本発のクラウド環境で分析ができるオープン&フリーなプラットフォームになっており、衛星と地上の複数のデータをかけ合わせ、新たなビジネスを創るための機能を提供するものとなっています。
これまで衛星データの加工には高い専門性や高価な処理設備・ソフトウェアが必要なことから、産業利用は限定的でしたが、Tellusでは、こうした利用者の衛星データ利用への参入障壁を取り除くために、衛星データと分析・アプリケーションなどの開発環境が無料で提供されるようになっています。
(Tellusの登録ユーザー数は、24,000人(※2021年10月)を超えています。)
2 Tellus開発経緯と課題
1)山崎 秀人氏
さくらインターネットにて、クロスデータアライアンスプロジェクト シニアプロデューサーの山崎 秀人氏の解説の要約をご紹介します(2020年03月)。
Tellusとは、経産省による宇宙産業政策のひとつとして、さくらインターネットが運営を受託したプロジェクトになります。
そしてこのプロジェクトでは、さくらインターネットがクラウドベンダーである強みを生かして、全部の衛星データをクラウド上に並べて、誰にでも使ってもらえるようにハードルを下げようというのが、このプロジェクトの根幹になっています。
次に、Tellusにアップされているデータについてですが、「分解能」という観点でお話すると、一番小さいもので分解能0.5mです。0.5mは、具体的には走っている車の形が分かったり、車種が見分けられる精度になります。 いま、海外も含めて市場の衛星データの最も精度の高いものは、分解能0.3mくらいで、Tellusデータはすこし劣りますが、このレベルの衛星データを無料で使えるようにしているのは、おそらく世界で我々だけだと思います。一般的には、同レベルの分解能の衛星データはワンショットで100万円以上はかかるはずです。
あと、「波長」による分析もでき、標高、地表や海面の温度等、目には見えない情報も扱えるようになるので、それも衛星データの特徴です。
そして、Tellusの次のステージとして、Tellus上で、データやアプリケーションなどの売買ができるように2020年の2月27日に「Tellusマーケット」をリリースしました。Tellusマーケットは、個人や法人がプロバイダーの様々なツール(アルゴリズム、データ、アプリケーション)を安全に取引できるサービスを指しています。
マーケットで購入したものは、Tellusの開発環境やTellus操作環境(Tellus OS)で利用することができるようになります。
企業が持っているけど活用していないデータやアルゴリズムをTellusを通して販売することで、これまでだと活用方法のなかったものでも価値を見出すことができるようなり、こうすることで、利用してみたいデータやアルゴリズムの入手が簡単になります。
2)田中 邦裕氏
次に、さくらインターネット(株)の田中 邦裕社長のお話しの要約をご紹介します。
これまでの3年を振り返って、仲間が多く加わりました。
例えば、現在Tellusのオウンドメディアとなっている「宙畑」という宇宙メディアと繋がり、一緒に情報を発信したりと、Tellusのサービス開発を行う上で素晴らしい体制ができたと考えています。
一方で、衛星データを利活用することは非常にハードルが高いことに気づかされた3年間でもありました。
宇宙ビジネスの事業化は従来製造メーカー中心だったのですが、IT企業が衛星データ事業を事業化するということで、新しい「事業化ステージ」に入ったと思っています。
Tellus開発に当たって、メンバーには100点がつけられると思いますが、一方で社会にどれだけ影響を与えているかという観点では、現状10点ぐらいだと考えています。
今後もっと世の中でTellusが使われている状態にすることで、残りの90点を埋めていくことになります。
残りの90点を埋める重要なポイントは、
①プロバイダ(Tellus上で商品を販売する企業)を増やし、扱えるデータを増やすこと。
②多様な人材の確保。
これまでは、衛星データの使用方法をエンドユーザーの思考錯誤に委ねていましたが、GISや統計に詳しい人材を確保し、これまで見えなかったTellusの活用方法を発見し広めること。
③利用される機会を増やすこと。
等に集約されるかと思います。
Tellusは政府支援で構築された「サービス開発フェーズ」から、自立して売り上げを伸ばす「事業化フェーズ」に移行していきます。
事業化フェーズを成功させるには、次のTellusを一緒に創っていく仲間が必要になります。
「自社のプロダクトに衛星データを生かしたい」、「Tellusのサービスプロバイダになりたい」、「衛星データの知識・統計の知識を生かしたい」等、関わる仕方はいろいろあります。
私たちも、民間初の衛星データ利活用プラットフォーム事業を行う「スタートアップ」の気持ちでこの事業を進めています。皆様にTellusを知っていただき、業界を盛り上げていけたらと思います。
Tellus宇宙事業は、新しい切り口の宇宙事業です。これからの事業になりますが、従来の“モノ”の市場から、通信衛星を使った“データ”に新市場を作り、市場が形成され、市場が進化、拡大する所に大きな意味があると思われます。
以上、Telusという、新しい宇宙事業を紹介してきました。以下で、Tellus事業の実際を見て見まます。
3 衛星データの概況(衛星データ衛星データビジネスより)
1)衛星搭載センサ
2)衛星データのイメージ・特徴
衛星データは、図4,5のように、光学衛星とSAR衛星では異なります。
3)衛星データを利用したビジネス
(1)地形把握
人工衛星から、世界中の土地利用、災害リスクや、水管理、プラント、道路などインフラ施設の配置、 を把握可能。
(2)農作物の生育予測
農作物の作付面積、生育状況の把握や適期収穫時期の予測を行い、農業生産者の生産性と収益性を向上する意思決定支援。
(3)森林監視・管理
広範囲な森林を人工衛星により効率的に観測し、樹種分類による森林管理や病害虫の被害把握などが実施。
(4)魚群探査・養殖監視
海面水温、植物性プランクトン、海面高度などの情報による魚群探査により漁獲高の向上、漁船の燃油節約などが期待。
(5)天気予報
気象衛星データやアメダスなどの地上データを活用し、コンピュータシミュレーションを行うことで、日本全国の天気予報が可能。
(6)その他
Tellus 衛星データビジネスより
4 むすび
Tellus(テルース)宇宙ビジネスは日本では緒に就いたばかりで、今後の発展はどれほどの人に利用されるかにかかっていると言えます。しかし、その可能性は大きく、データやアプリケーションを扱う人材が増えていくとき、Tellus宇宙ビジネスは花開いていくものと思われます。
多くの人が、Tellusに興味を持ち、Tellus宇宙ビジネスに参入する時、Tellus宇宙ビジネスは様々な産業と関係する、大きな新しい「統括産業」としての道を歩み始めるものと思われます。
皆様の新しい分野でのご活躍を祈念しています。