【植物工場】
皆さん、植物工場の話はお聞きになったことがありますか。今農産物価格が上昇しているようですが今年は天候異変か、雨が少なく、農産物の生育状況が悪いようです。これから価格の上昇はあっても下がることはなさそうです。
天候に左右されずに安定的に農産物出荷できる方法があればと、誰しも思うところではないでしょうか。
また消費者も、価格が乱高下せず、安定した価格であればと誰しも思うところではないでしょうか。
その解の一つに、「植物工場」があります。
ところで植物工場には太陽光を利用する「太陽光型植物工場」と利用しない「人工光型植物工場」がありますが、特に「人工光型植物工場」は太陽光を一切使用せず、光、温湿度、二酸化炭素濃度、気流速度などの植物の生育環境を制御し、閉鎖的または半閉鎖的な空間で、通常の土の代わりに培養液によって天候や土壌に左右されず野菜などを安定的に供給できる施設のことを言い、農薬散布にかかる 作業量・農薬費用などが削減でき、大きなメリットが期待されています。
(これから、ここでいう植物工場とは、「人工光型植物工場」を指すものとします。)
「人工光型植物工場」で、従来の光源はメタルハイランドランプ、蛍光灯でしたが、2010年の政府の新成長戦略の一つとしてのLED100%普及を目指す動きをきっかけにLED価格が下がり、植物工場のLED化が加速しました。
植物工場にはいくつかのメリットが存在します。
メリット1
天候や場所に制約されず、計画的に生産可能
メリット2
光源の色(波長)を植物が求める色(波長)にすることによって、植物の生長速度を早め、栽培期間を短縮することが可能
栽培棚を多段栽培棚にすることで、床面積あたりの生産能力を大幅に増やすことが可能。
メリット3
LEDの色(波長)をコントロールすることで、ビタミン、ポリフェノールなどの栄養成分を多くする付加価値の高い作物の生産が可能(機能性植物生産)。
メリット4
人工光型植物工場での栽培は無農薬栽培で収穫後の日持ちが延び、また水洗いの手間も省略可能。
メリット5
一定条件下での栽培のために、品質が一定。
メリット6
資源節約(水の節約)で、環境に優しい。
以上のように、植物工場には多くのメリットがあります。
しかし、 植物工場のデメリットとして、
デメリット1
建物費用、LED、空調などの初期設備費用が高い
デメリット2
人工光源用ランプの電気代、空調機器の電気代などのランニングコストが高い。
以上が植物工場のネックで、たとえば、植物工場とビニールハウスによる水耕栽培の10アール当たりのコスト比較では、設置コストで施設生産の1800万円に対し、植物工場は3億1000万円、ランニングコスト(光熱費)では施設生産の40万円に対し、植物工場は1860万円となっており、植物工場は圧倒的に高コストになっています。
したがって、各種植物の最適な環境条件下での生産が必要になりますが、現在各種植物個々の最適な環境条件がまだ十分に解明されておらず、したがって高付加価値型植物生産に繋がっていないことに課題が見られ、植物工場に参入している企業200社のうち、黒字は約25%、トントンが33%程度で、残りは赤字という状況になっています。
確かに現在は高コストの植物工場ですが、異常気象の多発で農産物価格が高騰する現在、常に無農薬で安心・安全の農産物をコンスタントに一定量供給できる植物工場には大きな社会的メリットがあるのかもしれません。
植物工場の技術革新と各種植物の最適生育条件の解明が、今後の植物工場の可能性を高めるのかもしれません。
【今後の植物工場】
1 技術の発展
「人工知能(AI)」と「もののインターネット(IOT)」のさらなる進化によって、植物の最適環境が分かるようになり、生産性の向上、高付加価値型植物の発見・生産に向けて動くことができ、経営が改善されるようになります。
また、LEDの低廉化などによる経費削減や、建設コストも新部材の発明等により低廉化が促進される可能性があります。
2 今後の異常気象の常態化、円安という経済環境下で、輸入野菜、国内生産野菜の高価格化が普通になる可能性があり、結果として、植物工場建設に追い風が吹く可能性があります。
以上、植物工場の課題である「コスト」面が技術革新によって克服されていくとき、メリットが大きくなり、またアレルギーや健康に何らかの障害を感じている方々にとっては、植物工場で生産される機能性農産物は朗報かもしれません。
機能性農産物とは品種改良や生産方法の改良などによって疲労回復・老化防止・生活習慣病予防などに効果があるとされる成分(機能性成分)を通常よりも多く含んだ、または少なくした農産物の総称で、すでに植物工場では腎臓病などで食事制限のある方に対して、安心安全・完全無農薬の低カリウム野菜を提供できています。
機能性を示すものには、強い抗酸化作用を持ち、発ガンを抑制する効果や、老化防止作用、毛細血管を丈夫にする作用、抗アレルギー作用等を有する「ポリフェノール」、強い抗酸化作用を持ち、胃ガンや肝臓ガンの原因の一つであるニトロソアミンの生成を抑制し、インターフェロンという抗ガン物質の生成を促進する「アスコルビン酸(ビタミンC)」、抗酸化作用のある力口テノイドとともに働いて、ガン予防に効果的といわれ、また、コレステロール値を下げる効果や、貧血予防効果、炎症鎮静作用等が期待できる「クロロフィル(葉緑素)」など、多く有り、これらの機能性のどれかを特に多く含むような野菜を、今後の研究開発にもよりますが、植物工場が生産できれば、画期的といえると思われます。
【完全人工光型植物工場に適した栽培品種】
(エム・ヴイ・エム商事株式会社 ホームページを参照)
完全人工光型植物工場で生産に適する作物は、半陰性植物と陰性植物(地上に実をつけない野菜)です。
1 完全人工光型植物工場に適した栽培品種
完全人工光型植物工場に適した栽培品種は野菜で、レタスやほうれん草が半陰性植物で、比較的低照度で栽培が可能になります。
(1)半陰性植物:レタス、イチゴ、ホウレンソウ、コマツナ、パセリ、 シュンギク、ショウガ、アスパラ、ネギ、インゲン、ミョウガ、カブ、わさび、ジャガイモ、サトイモ等
(2)陰性植物:ミツバ、セリ、クレソン、シソ、ミョウガ、フキ、ニラ等
2 半陰性植物と陰性植物が選択される理由
(1)低照度でも栽培が可能
陰性植物は日光が不十分な日陰で育ちます。このことは、光が弱くても植物体の成長が呼吸によるエネルギー消費よりも大きいことを意味しており、弱い光でも成長できることを示しています。
(2) 陰生植物の葉の柵状組織が未発達なため、光飽和点が低いので、電気代などの経費や照明機器への投資金額を抑える事が出来ます。
(3)レタスの葉厚が薄いのは、柵状組織の発達が十分でないからです。
(4)トマトなどの果菜類は強光を必要とし、栽培日数が長くなります。人工光は売り物にならない葉や茎にも利用され、葉丈が高くなるので多段式栽培が難しく、経費が高くなります。また、初期費用も大きいので減価償却費も大きく、販売価格が高くなり、事業として成り立ちにくくなります。
以上、完全人工光型植物工場での生産に適する作物は、半陰性植物、陰性植物になりますが、高付加価値の「機能性」を加味した野菜はこの中から選ばれることになります。しかし、まだ機能性作物としての分析は十分ではなく、これからのものになっています。
【植物工場の未来】
今や宇宙がフロンティアとなって、米ソならず、今では米中が覇を競っています。月世界での居住は既に夢物語ではなく、それは何時実現するかという、実現時期に来ています。そしてその先には火星での居住が視野に入ることになります。
ヨーロッパが中南米、アジアを目指した15世紀後半から17世紀にいたる大航海時代に猛威を振るったのは「壊血病」でした。
病状は、①古傷が開く、②歯茎から血が出る、③全身に血豆ができる、④骨折を起こしやすくなる、などで、当時、この得体の知れない病にかかった者は急速に衰弱し、やがて死に至ることになります。脚気などの他の病気を併発することもあり、その犠牲者は南北戦争の三倍にもおよんだといわれています。
「壊血病や骨折の原因」は果物や野菜不足によるビタミンCの欠乏で、それにともないコラーゲン・骨組織の生成に障害が出ることにあります。
大航海時代において、大西洋・インド洋・太平洋などを横断する際には、船員は非常に長い期間(2~3か月)洋上生活を強いられます。その間船乗りたちが食べていたのは、乾物や塩漬けといった長期保存食でしたが、これらには圧倒的にビタミンが不足していたのでした。
17世紀に東インド会社の医務官が、船員にオレンジやレモン、ライムを食べさせることで症状が緩和できることを発見し、以降、壊血病は沈静化していきます。
月世界での居住は2~3か月の短期間なものではなく、恐らく数年に渡って居住することになると思われます。
その時、大航海時代の脚気を防ぐためには、ビタミンCの摂取が必須であり、そのためには植物工場が必需品として月面宇宙センターに備えられる必要があります。
植物工場は、これからの月面居住、火星居住、そして遠い将来には惑星間航行に無くてはならない必需品になること、間違いありません。
未来の人類の夢を叶えるものとして、植物工場の改良、作物の機能性開発は必要になってくるものと思われます。
現在の課題を解決し、将来に希望を持たせる植物工場に期待したいものです。
私たちに夢を与えて下さい!!