農業の出番だが!!


―たかが食料、されど食料―

 ロシア・ウクライナ戦争が世界経済に大きな影響を与え、世界的な資源高や供給網の混乱に大きな影響を与え、そして急激に進む円安が輸入品の調達コストの高騰に拍車をかけています。

 これを受けて国内では、小売り・外食や食品メーカーで食材の調達や加工を国内に切り替える動きが相次ぎ、セブンでは4月から、これまで鶏肉をタイからの輸入品としていましたが、国産に切り替えています。

 ニュージーランド産バターの仕入れ価格が昨年から30%程度上昇していることから、シャトレーゼはアイスなどの乳原料となるバターや脱脂粉乳などの国産乳原料の比率を2021年度に5割に、2022年度には8割程度にまで高める方針とされています。

 また食材加工では、チキンの加工はタイや中国などの海外での生産が大半を占めていましたが、今後は国内での生産比率を高める方針と言われ、ニチレイでは2023年度から国内工場で冷凍チキンの加工品生産を増やす意向と言われています。

 また米に関しては、2021年の米国産米はカリフォルニア州の干ばつで生産量が減った上に海上輸送運賃の高騰、円安・ドル高により、2022年3月の入札米国産うるち精米の売渡価格は239円/㎏と、JAが米卸に販売する全銘柄平均と同水準になり、外国産米を使うメリットがなくなり、大手牛丼チェーン店の「吉野屋」、九州で総菜チェーンを展開する「ヒライ」は米国産米とのブレンドを止め、ほぼ国産米に使用を切り替えたと言われています。

 高騰が続く配合飼料でも、調達の見直しの動きがあり、養豚業で使う飼料を輸入小麦から国産飼料用米に転換する取り組みも始まっていると言われます。

  こうして、食材輸入が国際紛争による資源高騰、円安により、高コストなものになり、これからも安価な食材が確保できるという前提条件が崩れてきています。

 私たちはこれまでの安価な食材を未来永劫的に確保出来るという条件が無くなりつつあることを前提に、これからの生活を考える時期に来ているように思われます。

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ところで、どうしてこのような事態、経済状況になったのか、少し歴史を眺めてみたいと思います。

戦後高度経済成長に移るころの日本経済を見るとき、日本は米国に対して大きな貿易赤字を抱えていました。

表1から、ちょうど東京オリンピックが終わり、新幹線が開通して日本経済が勃興しつつあったときの1964年、日米間に大きな経済変化がありました。それまで米国に対して貿易赤字であった日本が、1964年を境に、米国に対して貿易黒字国に転換することになります(表1)。

 こうして日米間で貿易交渉が行われることになります。

 1947年、「 関税 および貿易に関する一般協定(GATT」が誕生し、貿易の自由化を目指す動きが始まります。

 日本は1963年に加盟し、その後ケネディ・ラウンド(1964~1967 年)、東京ラウンド(1973~1979 年)、ウルグアイラウンド(1986~1993年)で、日本に対して大きな貿易赤字を抱える米国の強い圧力の下、農産物の自由化を進めることになり、当時の円高の進展から高コスト体質の日本は技術力に優る工業製品の輸出拡大を承認してもらう一方、比較劣位の農産物輸入を拡大させてきました。

その結果、農業は衰退し、カロリーベースの食料自給率は37%にまで低下することになりました(図1、図2)。

 この日本の食料自給構造、自給率の低下は、農業を海外に譲る代わりに工業は日本に残す、発展させるという日本、日本政府が望んだ姿であり、強い技術力が永続し、日本は未来永劫的に技術立国として進むことができるという前提に成り立つものでした。

 しかしバブル経済が崩壊し、同時に米国からの強い円高圧力により、日本経済は大きく方向が変わってきます。

日本の企業は円高圧力に耐えるために、積極的に海外進出を進め、日本の強かったモノづくり技術は海外に移転されることになります。

 そしてバブル崩壊によって生じた財政悪化は、財務省(旧大蔵省)の強い緊縮財政へとつながっていきます。

経済停滞はバブル崩壊後、30年続き、現在でも経済は停滞しており、国の積極的な設備投資はなくなり、研究開発費も削られ、日本がこれまで標榜してきた技術立国としての地位は危うくなってきました。

 表2を見れば、2011年は東日本大震災があり、原子力発電所は全て休止となり、化石燃料の大量輸入で貿易赤字が膨らみますが、東日本大震災の傷が癒え始めた2016年以降も貿易黒字の縮小、赤字の拡大傾向が続くようになっています。

 このことは、技術立国、貿易立国としての日本が、緊縮財政の下、技術開発、設備投資を抑えてきた結果、サービス、観光立国としての道を歩み始めている状況を示しているのかもしれません。

 もう一つ注意しておかねばならない経済指標として、経常収支を見ておかなくてはなりません。

 経常収支とは、海外とのモノやサービス、投資収益のやり取りなどの、金融資産取引を除く経済取引で生じるお金の出入りをいいます。

モノの輸出入に関する「貿易収支」、旅行や国際輸送、特許使用料に関する「サービス収支」、配当や利子のやり取りに関する「第一次所得収支」、そして無償資金援助や国際機関の分担金などに関する「第二次所得収支」から構成されています。

 図3を見ますと、経常収支も赤字が出るようになっており、コロナ、ロシアーウクライナ戦争の長期化、そして緊縮財政を今後も日本が続けることを予想しますと、強い技術力が永続し、日本は未来永劫的に技術立国として進むことができるという前提が崩れかねないものになっていますので、食料自給を捨ててきた日本は、円安が常態化する中、本格的に高価格の食料、食品の中で暮らす生活になるのかもしれません。

 戦後間もない頃の日本にはまだ食料生産構造はしっかりしていて、食料自給率もそれなりに高いものがありましたが、それを捨ててきた現在、技術立国、貿易立国ではなくなったから、食料自給率を昔のように戻そうと思ってももうできません。不可能です。

 日本が辿ってきた道は一方通行の道で、後戻りはできない道だったことを知る必要があるのかもしれません。

 以上が大まかに見た日本の戦後の簡単な歴史になりますが、日本の大手食品メーカー、外食産業が急激な円安の中、こぞって食材を国内農産物使用に舵をきりつつありますが、日本の食料生産構造が大きく劣化してきた現在、輸入農産物をそう簡単に国内農産物に切り替えることができるとは思われません。

とすると、急激な円安が常態化することを見こした高価格、高コストの生活を私たちは覚悟しなくてはならないのかもしれません。

 人間の三大生活必需品の「衣・食・住」のうち、“食”が厳しいものになろうとしています。

 生活を守るための自助努力、家庭菜園など、少し真面目に考えてみる必要があるのかもしれません。

 皆さんの生活が安泰でありますうように、お祈りしています。


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