円安98年危機以来の水準(日経)


―6月13日、一時135円台前半に―

―競争力の低下映す―

 とうとう1ドル135円台の円安に突入しました。米欧でインフレが加速し、米国連邦準備理事会(FRB)や欧州中央銀行(ECB)が金融引き締めを急ぐ一方、金融緩和を続ける日銀との格差が一段と鮮明になっており、海外と日本の金利差が更に拡大するとの見方から、海外ヘッジファンドの円売りが続いています。

 この水準は金融不安で「日本売り」が進んだ1998年以来の円安・ドル高水準で、円安を招く構図は当時と様変わりし、産業競争力を底上げしてこなかった日本経済の脆さをもろに示したものになっています。

 バブル経済が崩壊し、1997年頃から相次いだ金融機関の破綻の連鎖は止まらず、1998年、日本で有名な優良銀行であった北海道拓殖銀行、日本長期信用銀行が破綻し、金融危機下の日本で日本売りが激しくなり、企業は投資を絞り、賃金抑制が始まり、経済はデフレに入ろうとしていました。

 旧大蔵省(現財務省)は1998年4~6月に、計3兆円を超す円買いドル売りを実施しますが、それでも円は一時147円台まで売られました。

内閣府によると1998年当時10%程度であった日本の海外生産比率は2020年度に22%強へと2倍以上になり、国内産業の空洞化が進み、周辺機器を含むコンピューターの貿易では1998年当時7000億円の貿易黒字だったものが、2021年度には2兆円を超す貿易赤字に転落し、人手不足を補う投資も遅れ、日本の技術力、生産力は陰りを感じさせるものになっています。

 そしてここにきて新型コロナウイルスとロシア・ウクライナ紛争は国際的な供給網の再構築の必要性を浮かび上がらせ、中国、ロシア等に海外依存を拡大してきた日本に課題を突き付けています。

 こうした課題に真剣に対処してこなかった日本は、極めて厳しい問題に直面していることになり、また産業の空洞化を放置し、産業競争力低下を放置してきた日本の円売り圧力は強まりこそすれ、弱まることはないものと思われます。

 金融危機時の1ドル147円水準を超えて、150円水準以上に円は暴落する可能性を排除することはできません。

 こと、ここに至れば、円安を生かすための長期的視点にたった産業強化策を国策最優先課題として取り組む必要があると思われます。

 そこで、産業の空洞化・産業競争力低下を放置してきた、いや日本の「産業競争力強化、経済拡大」よりも最優先課題を「財政破綻回避」に掲げた財務省は、最優先課題を「円安を生かすための長期的視点にたった産業強化策」に変更し、財政・経済政策を練り直す必要があります。

 ここで、再度財務省の20年に渡る政策のエッセンスを眺めてみたいと思います。

表1から、財務省はひたすらこの20年間を「基礎的財政収支の黒字化(プライマリーバランス(PB)の黒字化)」を目指してきた様子が窺われます。

 そこには産業競争力については一言も言及されてはおらず、ただひたすらPBの黒字化を最優先課題としてきた様子が窺われます。

 バブル崩壊から1998年当時、金融危機が現実的なものになり経済がデフレ基調になりますが、税収の落ち込みを財務省の強力な圧力のした、1997年、橋本龍太郎は消費税を3%から5%に増税し、このスタンスがその後財務省の基本スタンスとして「基礎的財政収支の黒字化(プライマリーバランス(PB)の黒字化)」に引き継がれていくことになります。

 そしてこの「基礎的財政収支の黒字化(プライマリーバランス(PB)の黒字化)」政策が、日本の産業競争力低下に拍車をかけます。

 金融危機で財政がひっ迫したとき、2つの選択肢があります。

1 産業を活性化し、経済規模を拡大して法人税、所得税、消費税収を増やす。ただし、財政政策が必要になります。

2 消費税を増税し、税収不足を補う。財政政策は必要ありません。

  以上、2つの選択肢がありますが、財務省は手っ取り早く税収を増やす方法を選び、「消費増税」を敢行することになります。

 そのためには、経済規模は前年度と同レベル以上であることが条件となりますが、この条件は変動します。

 因みに、橋本龍太郎が3%から5%に消費増税をしたとき、景気は低迷し、1998年の税収は前年の53.9兆円から49.4兆円と4.5兆円も落ち込んでしまいました。

 しかし、税金は即徴収できるため、徴収に不確実性はありません。

 一方、産業・経済活性化策の成果は不確定であり、確実に活性化、拡大が保証されている訳でもありません。しかし、その果実は大きく、税収は確実に大きくなり、財政は改善されることになります。

 財務省は、どちらを選択したのでしょうか。

 勿論、消費増税を選択します。

 それまでに財政支出の拡大が続いていたので、将来確実に税の増収になるか分からない財政政策を必要とする「経済活性化・拡大政策」には及び腰で、即確実に税収として徴収できる「消費増税」を選択することになります。

 その大義名分が財政破綻を防ぐための「基礎的財政収支の黒字化(プライマリーバランス(PB)の黒字化)」になります。

 そして、金融危機後、財政政策の無い日本経済は停滞し、産業の空洞化、産業競争力の低下を生み出していきます。

そして現在があります。

 表1を見る限り、今後も財政政策は行われず、「産業を活性化し、経済規模を拡大して法人税、所得税、消費税収を増やす。」政策は行われず、結果、政策の変更がない限り、日本円水準は今後も円安の方向で推移していくことに間違いありません。

 ただその水準は、何時日本が政策を財政政策主体の「産業を活性化し、経済規模を拡大して法人税、所得税、消費税収を増やす。」方向に転換するかにかかっています。

 私の予想では、今が1&2の攻めき合時点だと思われますが、財務には精通しているかもしれませんが経済運営には素人の財務省は、当面PB黒字化をはずすことはないと思われます。

 日本はまだまだ沈んでいくでしょう。しかし、国民はこれを座して見ていてはいけないと思います。財務省の財政破綻論ロジックに負けないロジックを国民は身に着け、日本を「日、出ずる国」にしていく必要があると思います。

 ここで、財務省の二枚舌をご紹介しておきたいと思います。

 ここでは、財務省は「自国通貨建ての国債のデフォルトはない」と言っています。財政破綻論はどこから出てきたのでしょうか。

 いずれにしても、「基礎的財政収支の黒字化(プライマリーバランス(PB)の黒字化)」の背後には、私たちの窺い知ることのできない深い闇があるのかもしれません。

 皆さんのご活躍をお祈りしています。

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