急速な円安憂慮


―6月10日、財務省・金融庁・日銀が声明―

―円安の原因とその対応の仕方は正しいか―

 1ドル134円台の円安進行を受け、2022年6月10日、財務省・金融庁・日銀は、国際金融資本市場に関する情報交換会合で、足元の為替相場について「急速な円安の進行が見られ、憂慮している」との声明文を出しました。

 声明文では「為替相場はファンダメンタルズに沿って安定的に推移することが重要であり、急速な変動は望ましくない」と指摘し、政府と日銀は「緊密に連携しつつ、為替市場の動向やその経済・物価などへの影響を、一層の緊張感をもって注視していく」としています。

 そして、G7での合意を踏まえて、「各国通貨当局と緊密な意思疎通を図りつつ、必要な場合には適切な対応をとる」とも声明文に盛り込み、財務省は円相場の動向に関して「1日に何円も動いたりするのがファンダメンタルズに沿ったものなのかというと、そうでないという人が多いと思う」と述べ、「最近の過度な変動を憂慮し、その認識を確認、共有した」としています(日経、2022年6月11日)。

 ロシア・ウクライナ紛争による資源高、そして急激な円安によって所得の海外流出は11兆円になると試算されています(日経、2022年6月11日)。

 しかしこの円安の背景を探ると、アメリカの「米連邦準備制度理事会(FRB)」、ヨーロッパの「欧州中央銀行(ECB)」はインフレ抑制のために利上げに踏み切り、量的緩和を終了し、金融政策の正常化に向けて動いていることにあります。

 世界の金利変化を表1に掲げますが、昨年まで多くの国で(―)の公債金利が多かったのですが、現在では(―)の公債金利を持つのは日本のみで、世界的に見て、経済ファンダメンタルズから見れば、日本は円安の方向に向かうのが必然の流れになりつつあります。そしてその流れは加速しそうに思われます。

 しかし、金利が円安に進む根本的な原因ではありません。日本の金利がマイナスに沈み、円安が進む背景には、日本の国力の低下が根本原因として挙げられると思います。

 過去、高度経済成長の時代、生産力は上がり、輸出は伸び、貿易黒字が拡大し、経済力は「ジャパン アズ ナンバーワン」と言われるほどのものに拡大しました。と同時に国力は増加し、それに伴い円高が進行することになりました(表2)。

 国家の貨幣価値は国力を反映しており、国力のない国の貨幣価値は低いものです。日本の場合、国力の増大と共に、貨幣価値は増大し、1ドル360円が一時は1ドル78円台にまで、増加したことがありました。

 いずれにしても、円高時代は日本の国力が高かったことを意味していると言っても過言ではないと思います。

 では、現在の円安動向は何を物語っているのでしょうか。明らかに、現在の日本の国力低下を反映している、その結果だと判断できます。

 表2は、経済発展と国力拡大の関係を、私論的に簡略化して表に示したものです。

 国力は経済成長と同時に拡大し、経済成長の停滞・衰退とともに衰退していくものと考えられます。

大航海時代から産業革命時代、世界を席巻していたスペイン・ポルトガルは衰退し、経済成長著しい大英帝国が産業革命によって経済を飛躍的に拡大し、国力を増し、世界を席巻しました。

とどのつまり、現在の円安の動きは、いよいよ日本は経済衰退期に入り、国力が低下する時代に突入したことを示し、“円安”は「経済バロメーター」としての役割を担っていると類推した方がよいのかもしれません。

確かに現在の円安は急激でありすぎますが、ではこの円安を日本経済の停滞・衰退と捉えた場合、日本経済の停滞・衰退、国力の停滞・衰退を日本は座して黙って見過ごしてきた結果なのでしょうか。

勿論違います。日本政府が日本社会・経済をいろいろと考えて、発展させようとして努力した結果が現在の状況をもたらしているのです。

日本の経済・国力の停滞・衰退はほぼ2000年頃から始まっており、この間、日本のかじ取りは「日本国財務省」が取り仕切り、その圧倒的発言力、財務力によって、日本の経済運営を取り仕切ってきました。2000年~2020頃まで、一貫して財務省は日本を発展、成長させ、破綻から救う手段として、「財政健全化」、「プライマリーバランス(PB)の黒字化」を掲げ国家運営を総力で行ってきた結果が、日本の経済停滞・衰退、国力の停滞・衰退を招くことになっています。

では、現在の政府はこの「財政健全化」、「プライマリーバランス(PB)の黒字化」を別の社会・経済政策に変えて、日本の経済成長・国力を取り戻そうとしているのでしょうか。

残念ながら、日本政府は、今後も「財政健全化」、「プライマリーバランス(PB)の黒字化」を堅持し、日本経済を更なる衰退、国力衰退の道に進めようとしています。

というよりも、日本政府・財務省は、まだ日本経済の停滞・衰退の原因が「財政健全化」、「プライマリーバランス(PB)の黒字化」政策にあるとは認識していないようです。

 政府・財務省は経済成長・国力増進よりも、国債発行による政府債務の膨張が怖く、経済成長・国力増進政策を抑えて、「財政健全化」、「プライマリーバランス(PB)の黒字化」政策に邁進しています。

 政府債務を図1で確認しておきたいと思います。

図1 利払い費と金利の推移

 令和3年、2021年現在、政府債務は約990兆円になっており、この990兆円を減少させるために、経済成長・国力増進よりも「財政健全化」、「プライマリーバランス(PB)の黒字化」を優先することになります。

 表3の財務省発表の「財政健全化目標の変遷」を見れば、2002年から現在まで「国・地方PBの黒字化を目標」に政府は財政政策をしていることが分かります。そしてこの間、日本の経済成長は停滞・衰退し、国力もそれに比例して停滞・衰退し、周囲の拡張主義を唱える権威主義国の圧力により、国体の守護自体が危ぶまれるものになってきています。

表3 財政健全化目標の変遷(財務省)

 国力の停滞・衰退は国家防衛を困難なものにし、将来は国の消滅を予感させるものになっています。

しかし、この期に及んでも政府・財務省は「財政健全化」、「プライマリーバランス(PB)の黒字化」をあきらめることなく、国の存亡の危機、もしくは国が破綻するまで、この日本の停滞・衰退政策を堅持しようとしています。

 国が占領・消滅した暁には貨幣制度は占領国の貨幣制度になるため、日本の「円」は崩壊し、政府が日本国民に負っていた990兆円の債務は「0」になります。

 では、何のための「財政健全化」、「プライマリーバランス(PB)の黒字化」だったのでしょうか。国民に負担を強いて、その結果国力停滞・衰退を招き、国が他国に占領されて、「円」崩壊で価値「0」とは、一体どういうことでしょうか。

 過去20年間、政府・財務省が進めてきた「財政健全化」、「プライマリーバランス(PB)の黒字化」の行く先は「日本の消滅」への道に他なりません。

2019年の、OECDによる「対日経済審査報告書」を見てみましょう。

 政府・財務省はOECD勧告には基本的に従う体質にありますから、その衝撃的な勧告内容を確認しておきたいと思います。

 表4の赤字で囲った部分をご覧ください。

 将来の消費税は26%に引き上げるものになっており、経済が停滞・縮小の中で、消費税26%は生活を破壊する最大の眼目になることでしょう。

 消費はデフレ下で26%減少し、ますます日本経済は縮小し、国力は低下していきます。

 国会周辺で、大規模なデモが発生するかもしれませんが、恐らく政府は警察を使って強行突破を目論むかもしれません。

 では、次に政府債務の増加原因について、政府はどのような見解を持っているのか確認してみたいと思います。

 図2の財政悪化要因を見ます。

 政府債務を“悪”とする財務省の見解は簡単に言えば、①税収の伸びが無い、②社会保障費の急拡大、③社会保障費の財源に国債発行の3点に絞られると思います。 

 しかしここで注目しておかなければならないことは、公共事業、教育、防衛(公共投資、産業投資がされていない=財政政策が行われていない)などの伸びがこの20年間ほとんどなく、バブル崩壊後の経済停滞を払拭するために政府が率先して取り組むべき経済投資がほとんどなされなかったことに注目すべきであり、この意味は、政府は明らかに経済成長・国力増進よりも「財政健全化」、「プライマリーバランス(PB)の黒字化」重視にあり、その結果、経済停滞、税収伸びの停滞が促されていることに注目しておく必要があります。

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 表5の歳出・税収の推移では、この20年間、税収はほとんど伸びていません。

 ここで、試算的に、たとえばこの20年間、年率3%で経済成長したと仮定し、税収も年率3%で増えたと仮定すれば、20年後に税収は何倍になるか計算しますと、20年後には約1.8倍になります。

表5 歳出・税収の推移

 すなわち、例えば2001年の税収“47.9兆円”を仮定すれば、20年後の2021年には税収は約84.8

兆円になることが示され、ほぼ歳出額に等しいものになり、公債発行に頼る必要はないものになります。

 政府が経済政策よりも「財政健全化」、「プライマリーバランス(PB)の黒字化」を重視して、財政運営をした結果、税収が伸び悩み、政府債務が膨れ上がったと言えます。

 そしてその後、26%の消費税が待ち受けることになり、日本は更なる需要の大幅な落ち込み、これによる企業倒産、企業の海外逃避が日常化し、日本は世界でもまれに見る最貧国になっていくことが想定されます。

 

 以上を総括すれば、日本の“円”は、今後も下落し、政府が為替介入をすれば一時的には円高には振れますが、体制は絶え間ない円安が日本を襲い、日本は奈落の底に沈んでいくことが想定されます。

 このままでは、日本の財務省が日本を滅ぼすと言っても過言ではないことになるでしょう。

 でも、多くの日本人は財務省の「財政健全化」、「プライマリーバランス(PB)の黒字化」を支持し、滅亡への道を歩みつつあることを知りません。

 いずれにしても、日本はこのままではマヤ文明やアステカ文明のように世界史から消え去る国になるかもしれません。

  しかし、国民がそれを支持しているのですから、それもしょうがないのかもしれません。

 皆さんのご活躍をお祈りしています。

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