メディアが騒ぐ「円安が告げる“日本売り”」


―通貨は国の鏡―

 2022年4月13日の外国為替市場で1ドル126円台前半まで円安が進み、市場では動揺が続きました。そして、6月7日には、一時1ドル133円台をつけ、2002年以来の約20年ぶりの円安ドル高水準をつけました。

 コロナ対策で市場に多額の資金供給を行い、物価上昇が急な米国では物価上昇(インフレ)、景気過熱を抑制する意味から、利上げを加速させる米連邦準備制度理事会(FRB)と、多額の国債金利負担軽減措置を続け、大規模な金融緩和を続ける日本銀行という、「日米正反対の金融政策」を背景に、低金利の円はドルに対して売られやすい状態が続いており、市場では1ドル135円程度まで売られるという見方も浮上していると言います。

米国連邦準備制度理事会(FRB)は2022年3月15、16日に連邦公開市場委員会(FOMC)を開催し、政策金利であるフェデラル・ファンド(FF)金利の現状の誘導目標0.00~0.25%を、0.25~0.50%とすることを決定し、2020年3月から続けてきたゼロ金利政策を解除し、今後は金利の引き上げペースと量的引き締めの実施時期に焦点が移ることになりました。2022年5月2日の米国債券市場では長期金利の指標になる10年国債利回りが上昇し(価格は下落)、一時3.01%になり、日銀が安定的に0.25%に抑えている長期金利の約12倍の金利差になっています。

通貨は内外の金利差が拡大すれば金利の大きい国に流れるという王道へと進みます。こうして金利の低い日本から金利の高いアメリカに資金は移動することになり、外国為替市場で“円安”圧力が加速することになります。

図1 円高・円安

では円安が問題になることを考えてみたいと思います。

円安のメリット、デメリットとして、

1.メリット

1)輸出を促進できる

2)円建ての輸出が増え、輸出企業の収益が拡大する

3)海外からの配当などが円建てで増加する

4)インバウンドの増加で景気が拡大する

2.デメリット

 1)原材料高で輸入企業の収益が悪化する(円の購買力が低下する)

 2)ガソリン高などで消費者の購買力が低下する(円の購買力が低下する)

 3)外国資本により、国内不動産が買収され、国家安全保障に問題が生ずる恐れがある

などが挙げられます。

 円安で騒ぐ理由は、①輸入物価の上昇で、消費者の購買力が低下し、家計負担が大きくなる、②原料高で輸入企業の収益が悪化する、③敵対的国による不動産、人的資本の買収が容易になる、ということになります。

 特にデフレ基調が続く日本では賃金の伸びが期待できない中での消費者物価の上昇になりますから、その負担感は想像以上に大きくなる可能性はあります。そして敵対国による不動産買収は、大きな禍根を国にもたらすことが想定されます。

ところで、円安の弊害を声高に述べるマスコミは、円安になった結果だけを追い、円安になった原因についての説明はありません。

円高になれば、円高の弊害だけを声高に述べ、円安になれば、円安の弊害だけを声高に述べます。円高・円安の結果だけを追っていたのでは、円高、円安への的確な処方箋は描き切れません。

円安に至る経緯をみて見たいと思います。

戦後の日本の為替は1ドル360円から出発しました。しかし、1971年のスミソニアン合意による主要国の通貨切り上げ、日本は360円から308円に切り上げられ、その後の主要国の変動為替相場への移行によって日本の円は更に円高へと進むことになります。

第1次オイルショック、第2次オイルショックを乗りきった日本は1985年のプラザ合意により円高を容認し、合意発表からわずか1日で、為替レートは1ドル=235円前後から20円も円高に動き、翌1986年7月には150円台まで円高が進みました。この大幅な円高は、自動車や電機といった輸出企業に経営効率化を迫るとともに、国民生活では輸入品の消費拡大、海外旅行ブームが起き、バブル経済が発生しました。

しかし、1990年3月の「土地関連融資の抑制について」(総量規制)に加えて、日本銀行の急激な金融引締により信用収縮が一気に進み、バブル経済は崩壊の道を辿ります。

株価は1989年12月29日に最高値38,915円87銭をつけたのをピークに、翌1990年から暴落に転じ、1993年末には、日本の株式価値総額は、1989年末の株価の59%にまで減少しました。

バブル崩壊で不況に陥った日本経済をさらに苦しめたのが日米貿易摩擦の激化と円高でした。

貿易摩擦は自動車に加えて、鉄鋼、半導体、スーパーコンピューターなどから、建設、流通、金融、サービスに至るまで広範囲にわたり、アメリカはこれらの分野の閉鎖性は「非関税障壁」だとして、その改善が進まないのは日本に構造的な問題があるからだとして、1989年に、これらを包括的に交渉する日米構造協議をスタートさせ、この協議は名称を変えながら1995年頃まで続くことになります。

こうした状態が何年も続くうちに、日本経済の力は削がれていくことになりました。

1991年12月のソ連崩壊後1993年1月、クリントン政権が誕生しました。クリントン政権は、経済的不均衡是正を目指して、当時世界最大の貿易黒字大国だった日本に対して円高政策を強力に推し進め、1995年4月には79円95銭の当時の史上最高値の円高を実現し、日本の輸出産業に円高不況と呼ばれる深刻な打撃を与えました。

日本政府に対しては減税や銀行への公的資金の投入に加えて、貿易不均衡是正を目指すスーパー301条に基づいた市場開放を強力に要求してきました。 

日本たたきを展開する一方で、中国との接近を図ります。天安門事件後、中国が経済面での開放政策を打ち出したのを機に中国との経済関係を深め、クリントン政権は中国が1994年に行った人民元の大幅切り下げを認めます。こうした中国への肩入れによって、1990年代後半から中国の急速な経済成長が始まり、中国の輸出増加を大いに助けました。日本に対する円高要求とは正反対の対応です。

こうして日本の製造業は製造コストが極端に安くなった中国へ大挙して進出を果たす一方、日本の製造能力は衰えて行くことになります。

2012年2月、日本最大のエルピーダメモリが円高倒産します。同じころ、シャープも液晶テレビで苦境に陥り、2016年3月、鴻海が亀山工場を含めたシャープ全体を買収します。日本のブランドメーカーがこうして次々に円高によって消えていくことになりました。

日本の製造業は円高によって国内生産が難しくなり、グローバル社会という美名の下に、製造業は大挙して海外へと出ていきました。

円は戦後、1ドル360円から出発したのですが、50年後、1ドル120円、約3倍の円高にまでなりました。世界で、これほどの通貨高になったのは日本だけです。

 したがって、円高により日本の経済構造は円高に合った形に急速に再編され、輸入型企業がもてはやされ、輸出型企業が縮小、撤退、海外移転へと追い込まれることになりました。しかしこの形態は日本から国富が出ていくことを意味しており、資源を持たない日本は早晩貿易黒字は無くなり、また海外進出企業も海外での利益は海外投資に回すことが多く、日本への還元も少なくなり、結果日本の経常収支も早晩赤字になり、円安になることは目に見えるものでした。

 日本の経済が強い時には、少々のインフレでも賃金上昇がそれ以上にあり、インフレに耐久力がありました。しかしデフレ下では、企業業績は上がらず、賃金は減少を続け、日本経済全体は縮小化の方向に進みます。

図2 インフレ・デフレ

 国内企業が大挙して国外に生産拠点を移し、日本へ逆輸入を始める事例が多くなるなか、政府はバブル経済崩壊後のデフレ経済を脱却するために、基礎的財政収支は、「プライマリーバランス(PB)」の健全性を謳い、財政政策を抑え、消費増税で対応しようとします。

 1984年4月、竹下登首相、3%の消費税導入

 1997年4月、橋本龍太郎首相、消費税5%に増税

 2014年4月、安倍晋三首相、消費税8%に上げ

 2019年10月、安倍晋三首相、消費税10%に上げ

 と、このデフレ期間、政府はプライマリーバランスの健全化を最優先することで、経済再生を実現できると、PB堅持を進めています。このスタンス、方針は今でも変わりありません。

 では、この間のデフレは解消されたのでしょうか。デフレは何を日本経済にもたらしたのでしょうか。

 日本経済は、長引くデフレで成長力が弱まり、成長できない日本の円は、“円売り”の圧力を高めることになりました。

 政府の凡そ30年にも及ぶ“基礎的財政収支の黒字化”を目指す財政運営は、結果として現在日本に超円安時代を迎えさせようとしています。

 政府の目論見では、今後消費税20%、25%も視野に入れているとも言われ、“基礎的財政収支の黒字化”政策は、底なしのデフレ経済、日本経済の縮小化、国民の窮乏化生活、世界の弱小・劣等国家へと進めることは、論を待たないでも分かります。

 では、税収を上げる方法は無いのでしょうか。

 実は、政府が現在取り組んでいることを逆の順序で進めれば良いのであって、経済が拡大すれば税収も増え、“基礎的財政収支の黒字化”も夢ではないことを知る必要があります。

 順序は、デフレで商材に対する需要が落ち込んでいるため、民間企業はいくら金融緩和で銀行にお金があっても、企業は設備投資することはありません。

 まずは、需要を作り出すことから始める必要があります。この起爆剤としての需要を作り出すために、財政措置が必要であり、「経済再建国債」「経済発展国債」など、名称はどうでもよいのですが、10~20兆円/年程度の多額の“経済活性化国債”を3~5年継続して発行し、需要を国内に作り出すことによって民間の設備投資意欲を喚起させ、経済を成長の軌道に乗せます。

 経済が成長の軌道に乗ったことが分かるのは、“インフレ”の進捗状況から判断でき、確実に経済が成長軌道に乗ったと分かる“3~5%”程度のインフレ率をもって、ここで、経済活性化国債を止めるか消費増税を行って、経済の過熱を抑えます。

 こうして、政府は経済活性化に成功した結果として、法人税、所得税、消費税の増収を期待でき、政府が述べる財政健全化に一歩近づくことができます。

 現在の政府に不足していることは、“基礎的財政収支の黒字化”を第一優先事項にしたことで、日本の成長・発展の方法、方向を間違ったものにしていることであり、成長があれば消費増税も、法人税も所得税も税収は伸び、消費税のみにしわ寄せする必要はなくなります。

 そして政府は、少しの経済回復の傾向が見られたら、すぐに増税を実施し、経済成長の芽を摘んでしまうところに大きな問題があります。

 安倍政権下では、まさに政府の稚拙な行動が、日本経済に大きなダメージを与えました。

 通貨は正に国力の“バロメーター”であり、日本の円が何故ここまで安くなったかを理解することにより、日本の発展は目に見えるものになります。

 円が安くなることによって、敵対国が日本の不動産、資源を買いあさることのないような法的整備を進めて頂いて、円安時代を生き抜いていきたいと思います。

 皆さんの上に、たくさんの祝福があることをお祈りしています。


コメントを残す

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です