“沈黙の春”と“オーガニック食品”


―私たちの生活を守るものー

何故、オーガニック農産物が話題になるのでしょうか。

 食の安心・安全が言われて久しいのですが、この問題の歴史的な流れを整理すれば、その発端は化学物質の危険性をいち早く指摘したレイチェル・カーソンの「沈黙の春」にあるのではないかと思います。

 『“アメリカの田舎のある町、そこは生命のあるものは自然と一つだった。豊かな田畑、果樹園が広がり、みどりの平野には春霞がたなびき、秋には燃えるような紅葉が綾をなす。森から狐の声が聞こえ、鹿が野を音もなく駆けて行く。

 ところが、あるときどういう呪いを受けたのか暗い影が忍び寄った。若鶏も牛も羊も病気で死んだ。そのうち、突然死ぬ人も出てきた。原因はわからない。大人だけでなく、子供も元気よく遊んでいたのに急に気分が悪くなって2~3時間後には冷たくなってしまった。春がきても自然は黙りこくっている。小鳥も歌わず、ミツバチの羽音も聞こえない。

 ひさしの樋の中や屋根板の隙間から、白い細かい粉が覗いていた。何週間前の事だったか、この白い粉が雪のように、屋根や庭や野原や小川に降り注いだ。

 病める世界・・・新しい生命の誕生を告げる声ももはや聞かれない。魔法にかけられたのでも、敵に襲われたのでもない。全ては人間が自ら招いた禍いであったのだ。

 現実にこのとおりの町があるわけではない。だが多かれ少なかれ似たような事はアメリカでも、他の国でも起こっている。恐ろしい妖怪が頭上を通り過ぎていったのに気づいた人はほとんど誰もいない。そんなのは、空想の物語さ、とみんな言うかもしれない。だが、これらの禍がいつ現実のものとなって、私達に襲いかかるか・・・思い知らされる日がくるだろう。”』(レイチェル・カーソン「沈黙の春」より)

 有名な場面ですが、私たちの健康に化学物質が悪影響を与えることを最初に指摘したのはレイチェル・カーソンでした。

 日本では当時、イタイイタイ病や水俣病が進行しており、それは有吉佐和子の「複合汚染」でさらに明確化されました。

 イタイイタイ病はカドミュウム汚染米を食することで、体内にカドミュウムが蓄積し発病する事になりましたが、水俣病はメチル水銀に汚染された魚を食することで体内にメチル水銀が蓄積し発病しました。いずれにしても、化学物質が体内に蓄積することによって発病したわけです。

「複合汚染」では、

  • 農薬と化学肥料の問題
  • 界面活性剤を含む洗剤使用の人体及び生態系への悪影響
  • 合成保存料、合成着色料など食品添加物使用の危険性
  • 自動車エンジンの排気ガスに含まれる窒素酸化物の危険性
  • こうした化学物質が生体濃縮で蓄積されていく過程

 等が紹介されており、水俣病やイタイイタイ病、四日市公害などが広く国民に理解されるようになりました。

 しかし、ここで紹介されている危険性は一部地域特有の病気、食品問題と捉えられていますが、1990年年代、小若順一による「ポストハーベスト農薬汚染」をきっかけに、広く輸入食品の危険性が指摘され、食料自給率が極端に低い日本での「食の安心・安全」問題が大きくクローズアップされました。

 そして、1997年、シーア・コルボーンの「奪われし未来」が世にでることによって環境ホルモン問題が話題になり、農薬、食品添加物など、地上に無い化学物質が動物の生殖機能を奪うことを説明することで、私たちの未来に警鐘が鳴らされました。

 その間にも、BSE問題、O-151問題など、多くの食品問題が世界を震撼させました。そして、現在では特に中国農産品の食品に多くの農薬、添加物が発見され、多くの人々に不安を感じさせています。

 いずれにしても、私たちは食を通して体内に様々な化学物質、異常プリオン等を取り入れることで健康に異常を来してきた様子が窺われます。

 これらを通じて、私たちは食の安心・安全に極めて敏感になるようになりました。

 現在、オーガニック食品はこうした農薬等の化学物質を使用しない、究極的な安心・安全食品ということで多くの人の支持を得るようになっています。

 ここで少しオーガニック(有機)についてみておきたいと思います。

【オーガニック(有機)農産物】

オーガニック(有機)農産物は、有機栽培によって生産された農産物のことを言いますが、日本有機農業研究会は、「有機農産物の定義」として,「有機農産物とは、生産から消費までの過程を通じて化学肥料農薬等の合成化学物質生物薬剤放射性物質、(遺伝子組換え種子及び生産物等)をまったく使用せず、その地域の資源をできるだけ活用し、自然が本来有する生産力を尊重した方法で生産されたものをいう」と定めています。

1992年農林水産省によって「有機農産物及び特別栽培農産物に係る表示ガイドライン」が制定され、「化学的に合成された肥料及び農薬を避けることを基本として、播種または植付け前2年以上(多年生作物にあっては、最初の収穫前3年前)の間、堆肥等による土づくりを行ったほ場において生産された農産物」と定義されました。

2000年日本農林規格 (JAS) が改正され、農産物について有機農産物またはそれに類似した表示をするためには、農林水産省の登録を受けた第三者機関(登録認証機関)の認証による有機JASの格付け審査に合格することが必要となりました。

これにより、有機農産物、また有機農産物を加工して作られた食品の名称(有機○○、オーガニック○○)の表示は「農林物資の規格化及び品質表示の適正化に関する法律(JAS法)」の適用を受け、認証先を記した「有機JASマーク」の表示が必要となり、違反した場合には罰則を受けることになりました。

有機JASの認証 有機JASマークは、厳しい生産基準をクリアして生産された、有機(オーガニック)食品の証です。有機食品のJAS規格は、以下のような生産の方法を定めています。

○ 有機農産物

種まき又は植え付け前2年以上、禁止された農薬や化学肥料を使用していない田畑で栽培する。

栽培期間中も禁止された遺伝子組換え技術を使用しない。農薬、化学肥料は使用しない。

○ 有機加工食品

化学的に合成された食品添加物や薬剤の使用は極力避ける。

原材料は、水と食塩を除いて、95%以上が有機食品である。

遺伝子組換え技術を使用しない。

この有機食品のJAS規格に適合した生産が行われていることを登録認定機関が検査し、その結果、認定された事業者のみが有機JASマークを貼ることができます。

以上のように、「有機農産物」「有機加工食品」は非常に厳しい安全基準をもっています。

 これとよく似たものに、「自然食品」があります。

【自然食品】

 自然食品とは、農薬や化学肥料などをできるだけ使わずに栽培された農産物、合成飼料を使わないで育てた畜産物、魚介類、遺伝子組み換え農作物を使っていない食品を言いますが、決まった定義はありません。

○自然食品と有機食品の言葉の使われ方

自然食品は、JAS法によって定義されている「有機食品」「オーガニック」よりも広い意味で使われることが多いようです。

1970年代以降、環境や自然、健康への関心が高まるとともに、「自然食品ブーム」が何度か訪れており、90年代以降もブームが続いています。最近は自然食品を特産物とした村おこしなども行われています。

 若干、自然食品は規格が曖昧で、栽培はしやすいものになっているように思われますが、有機農産物ほどには安心・安全と言えないかもしれません。

 では、巷で健康食品と言われているものはどうでしょうか。

【健康食品】

健康食品=いわゆる健康食品とは?
現在世の中に出回っている健康食品(サプリメントなど)は、特定の物を除き、法的には、ごはん、パン、豆腐や納豆と同じ事になり「いわゆる健康食品」とよばれています。

つまり食品衛生法(第2条第1項)で定められている「食品」と言うことになります。

この法律では『食品』を、「すべての飲食物をいう。ただし、薬事法に規定する医薬品及び医薬部外品はこれを含まない」と定めており、”いわゆる健康食品”は効能や効果について 表示することは出来ません。

医薬品は薬事法に基づいて含まれる成分などについての管理を厚生労働省が行いますが、食品では薬事法に基づく管理は行われていません。

 ただし、過去において”いわゆる健康食品”に含まれる不純物などにより健康被害が生じたり、誇大広告により惑わされたりした経験から、一定の条件を満たした食品は、ある程度の「効能・効果」のような表示をしても良いと言う制度が作られ、これを、『保健機能食品制度』といいます。


保健機能食品制度とは、従来、多種多様に販売されていた”いわゆる健康食品”のうち、一定の条件を満たした食品を「保健機能食品」と称する事を認める制度で、国への許可等の必要性や食品の目的、機能等の違い によって、「特定保健用食品」と「栄養機能食品」の2つのカテゴリーに分類されています。

「特定保健用食品」は、身体の生理学的機能や生物的活動に影響を与える保健機能成分を含み、食生活において特定の目的で摂取をするものに対し、その摂取により当該保健の目的が期待できる旨の表示をする食品です。

食品を特定保健用食品として販売するには、個別に生理的機能や特定の保健機能を示す有効性や安全性等に関する国の審査を受け許可(承認)を得なければなりません。

「栄養機能食品と」は、身体の健全な成長、発達、健康の維持に必要な栄養成分(ミネラル、ビタミン等)の補給、補完を目的としたもので、高齢化や食生活の乱れ等により、通常の食生活を行う事が難しく、 1日に必要な栄養成分を摂取出来ない場合等に、栄養成分の補給・補完の目的で摂取する食品です。

栄養機能食品と称して販売するには、国が定めた規格基準に適合する必要があり、その規格基準に適合すれば国等への許可申請や届出の必要はなく、製造・販売する事が出来ます。

図2 保険機能食品制度要約図

 以上、長々と書きましたが、健康を考える場合、農産物、食品についてよく考えてみる必要がありそうです。  皆さんの健康が維持され、豊かな生活が送られますようにお祈りしています。


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